必要なものは,山に登るという覚悟

丸山 淳一さん  第24期生 修士(カウンセリング)

企業に対する人事・教育コンサルテーションの仕事に携わる中,産業心理学をはじめとした心理学の知見は顧客に対する提案において非常に重宝するものでした。しかし,仕事に応じて知識を仕入れるという具合でしたので,仕入れの「偏り」には不安がありました。また多くの企業がグローバル対応を求められていく中,仕事上,日本でのマネジメントと海外でのマネジメントの差異について顧客と話す機会が増えていきました。お互いの文化や社会環境等の違いを理解することが大事ですよね,というような会話を繰り返していく中,「心理学の知見は海外からのものが多いが,日本人にそのまま当てはめてもよいものなのか」という疑問も出てきました。さらに,専門性を磨かなければ職業人として生き残れないのではという危機感も強くなっていました。そのようなことを背景に,学校に通ってしっかりと心理学を学んでみたい,と思ったことが大学院を志す動機でした。

夜間で学べる心理学の大学院を探していたところ,偶然にも同じ職場に筑波カウンセリングコースを修了された方がいらっしゃいました。コースの特徴を聞いてみると,「研究のやり方をきちんと学べる,論文指導をしっかりとやってくれるところ」というもの。当時は,ただ心理学を学びたい,研究者になるわけでもないし,とあまりピンと来なかったのですが,「論文をしっかりと書く」ことの重要性は後々に実感することになりました。

久しぶりの受験勉強を経て,なんとか運よく合格でき,翌年に授業が始まると,久しぶりの学校生活にワクワクの日々でした。仕事が終わって(またはえいやで抜け出して)からの参加でしたので,平日はほぼ毎回遅刻でしたが,いつも知的好奇心が刺激される時間でした。先生方はその分野のトップランナーであり,独学時に本でわかったつもりになっていた理論についても,その背景を深く知ることができ,正しい理解を深めることができました。

論文指導については,1年次から年3回の構想発表会があります。毎回,とにかく発表に間に合わすので精いっぱい,先生方からのコメントもその場では理解が追い付かず,後でICレコーダーを聞き直して理解する,というありさま。「この研究のオリジナリティはどこにあるのか?」「その研究をして社会に役立つのか?」といったイヤホンから流れる先生方の声が頭から離れない帰り道。ああつらい,そもそも心理学を学びたかっただけ,良い論文なんて書けなくても卒業さえできればいいや,と思ったことも正直ありました。しかしそのように道を外れなかったのは,温かく(ときには厳しく?)指導してくださる先生方はもちろん,同じように悶々としながらも真摯に自らの研究に向き合う同期の姿だったり,上級生としてケアしてくださる2年生の方々だったり,筑波カウンセリングコースが有する風土のおかげだったと思います。

2年生になると論文作成がメインになります。レビューする先行研究は日本国内だけでなく海外のものも求められるようになります(その求めは当初は聞こえないふりをしていましたが,否応なく耳に入ってきました)。アウトプットの要求が高いと,そのアウトプットを出すためのインプットの質・量も上げなければいけません。2年の夏を過ぎたころ,「論文をしっかりと書く」ことが,結果的に入学前に望んでいた「心理学をしっかりと学ぶこと」に通じるのだと理解するようになりました(理解することと出来ることはイコールではないことにも気づきましたが・・)。ただ,この体験記を入学の参考として読まれる方のために申し添えると,アウトプットの要求が高いといっても,筑波の先生方の論文指導は素晴らしく,また1年生時の授業も論文作成に必要な要素が織り込まれています。振り返ってみると世界の山々に挑戦する芸能人のように,優れたバックアップ体制とプログラムで高い山を登らせてもらっていたのだという印象があります。必要なものは山に登るという覚悟。一人だと不安ですが同じ目的をもった同期もいます。恐れることはありません。

大学院に通うには,授業料や書籍などお金がかかります。家族の協力も必要でした。平日夜間や土日の時間などが取られるため,今までの仕事を慣れたやり方とは違うやり方で進めなければいけなくなり,そういった面での精神的負担もありました。しかし,それらを上回る価値があります。筑波カウンセリングコースには様々な良い出会いがあり,大学時代にほとんど勉強していなかった自分にとって学びなおしとしても非常に充実した2年間を過ごすことができたこと,本当に感謝しています。ここで得られた資産を大切にしながら,さらに育てながら,今後の職業人生に活かしていきたいと思います。