カウンセリングコースで学んだこと

田中美千子さん 養護教諭 第26期生 修士(カウンセリング)

 喜びの修了式からはや2ヶ月が過ぎ、すっかり元の生活にもどりました。カウンセリングコースで学んだ2年間は本当に怒濤の日々で、非日常だったと感じています。

 私は、5年間の看護師経験を経て高等学校の養護教諭に転職し20年ほどになります。医療、教育の現場で対人援助職に携わっているので、常に心理領域の辺縁で動き回っていた印象がありますが、カウンセリングコースの受験を決めた直接のきっかけは、勤務の中で、教育相談や特別支援教育に深く関わった体験です。複雑で困難な事例を数多く経験したため、それを心理学の側面から理論的に整理し、形に残したいという気分に駆られたのです。
 心理学系の大学院はいくつもありますが、社会人のために夜間に開講していて、距離的に通いやすいことと、「理論研究者の育成というよりは,研究能力および高度の専門性を備えた専門的職業人の育成および再教育を志向」という理念に共感したことが、本コースの受験を決めた理由です。
 普段は受験生を迎える側なので、逆の立場になって書類をそろえ出願するのは新鮮な感じでした。しかし、出願書類を集めるのはけっこう手間がかかりました。
 本コースの入試内容は、あまりに広範囲にわたっているので、受験勉強のしようがない、というのが最初の印象でした。また、英文問題がないことが救いと受験の時は思いましたが、入学後は、事前にもっと心理学に関する英語を勉強しておけば良かったと激しく後悔しました。それでも、基礎心理学のテキストや臨床心理士系受験対策本を用いて受験勉強をしました。心理学分野も新しい内容がどんどん追加されるので、従来の知識をかなりアップデートしなくてはなりませんでした。また、入試の内容は論述ですので、日頃の勤務の中で、データを集めて推論して文章にまとめる作業をすることは、意外に受験勉強に役立っていたのかなとは、後から思ったところです。
 1次筆記試験、2次口述試験を経て合格通知を受け取ったときは、もちろんうれしくはありましたが、「しまった!」という、矛盾する感覚もありました。授業料等の出費のこと、職場に報告して理解を得なければならないこと、なによりもこの年齢で通学して90分の講義に耐えられるのか、ましてや修士論文なんて書けるのか、一気にリアルが押し寄せてくる感じで怖じ気づきそうになりました。そんな気持を奮い立たせ、入学手続きを済ませ、いよいよ1年目が始まりました。

 入学当初は当然のことながら戸惑いの連続でしたが、講義は週3日、多い時期に5日など、仕事を終わらせてから茗荷谷に駆けつける日々が始まりました。残業や土曜日出勤、アフターファイブの気晴らしのお誘いも極力断らざるを得ないので、職場にはずいぶん迷惑をかけたと、今になってあらためて思います。また、講義が終わってから帰宅するとほとんど深夜ですので、家のことは置き去りになり、家族の協力なくしてはまったく通えなかったと、今でも感謝しています。
 1年目の講義は「カウンセリング心理学」「生涯発達臨床心理学」「人間関係論」「心理教育統計法」などの基礎科目からはじまり、「健康心理学」「心理療法」などの科目が前期に、「カウンセリング方法論」「キャリア心理学」「社会調査法」などの科目が後期に入ってきます。私は、学校心理士資格申請用の科目も履修したので、リハビリテーションコースの科目や、筑波の本校で開講された「臨床発達心理査定法特講」も履修しました。結局2年間で計30科目(1年目24単位、2年目6単位)、48.5単位を修得することができましたが、だいたい皆さんこのような履修状況だったかと思います。講義が一番つらかったのは、10月~11月でした。このころはほぼ毎日学校に行っていました。

 2年目は、修士論文の作成がメインになります。ご指導いただく先生と所属ゼミの決定は1年目の2月ですので、修論作成に向けての本格的な過程は3月から始まりました。ゼミの形態は、それぞれのゼミで異なりますが、私の所属したゼミではほぼ週に1回、3人のゼミ生合同で、時に博士課程の方や、修了した先輩方が加わることもあり、支えていただきながら進めていきました。また、修士論文の作成については1年目から「構想発表会」や「中間発表会」が節目にあるので、その都度、カウンセリングコースの諸先生方のご指導やご確認をいただきながら進める形になります。
 私は調査研究の形式で修士論文をまとめましたが、データが上がってきたのが最終的に11月初旬、そこから分析をはじめ、論文執筆を行いました。2年目の年末年始はほとんど連日徹夜続きで分析と結果のまとめ、考察を行っていました。ある日、データ解析室でデータの分析結果を眺めながら、これをどうやって文章にまとめ上げたらいいのか難航し、つい「これ以上やれる気がしない…」と弱音が口を衝いて出たところ、解析室にいた級友たちが「何言ってるの!!」「美千子さんがそんなこと言うなんて!」と、口々に叱咤激励してくれました。背中を強く押されたできごとでした。
論文の提出は1月26日の20:00しめ切りでしたが、当日の16:00過ぎまでゼミの先生のご指導をいただき推敲していました。ご指導いただいた先生の、学問を追究し妥協せず、最後まで導いてくださったお姿には、本当に感謝と尊敬の念を強く感じました。

 論文が受理された後には、論文の発表・口答試験がありました。2年間の集大成を皆さんに発表する大切な機会です。級友たちがさまざまな分野の研究成果を次々と発表し、先生方の口頭試問に答えていきます。非常に貴重な体験でしたし、質疑の内容はとても勉強になりました。特に、講評のなかで先生がおっしゃった「調査研究では研究協力者の方々が、答えづらいような質問にも一生懸命答えてくださった、その結果のデータに対して、研究者は真摯な態度で臨みきちんと分析しなければならないのです」という言葉は、強く心に残りました。論文の作成、発表は確かにたいへんではありますが、その陰には、ご協力くださった協力者の方々の存在があり、私たち職業人が行う研究は、そのような方々に、よりよいサービスを還元するためのものであることを、あらためて考え直させられた言葉でした。

 駆け足で受験からの3年近い日々のことを振り返ってきました。今こうして思い返せば、「よくやったな」と感じつつも正直なところ、「無我夢中であまり覚えていない」のが実感です。しかしこの2年間の大塚キャンパスでの学びが、専門職として職務を行う上での大きな自信と指針を与えてくれたことは間違いありません。

ご指導くださった諸先生方と、大塚キャンパスでの日々をともに過ごした同級生の方々、ご理解ご協力くださった職場の方々、および家族にも、この場を借りて深く感謝申し上げます。