千島雄太 教育心理学 ち しま ゆう た 未来の自分と話したいですか? 8 つくばの心理学 2023 研究アラカルト 筑波大学に入学すると、上で紹介した“IMAGINE THE FUTURE.”の文字を日常的に目にする機会があります。これは筑波大学のスローガンです(https://www.tsukuba. ac.jp/about/public-branding/)。このスローガンからもわかる通り、筑波大学は非常に未来指向的で、イノベーティブな大学です。そして私自身は、まさに未来を想像することについて教育心理学の立場から研究しています。この研究領域は、時間的展望(time perspective)と呼ばれています。 皆さんは、10年後の未来がどうなっているのか、自分がどんな暮らしをしているのか考えてみたことがありますか? 18歳の人であれば、28歳になっています。大学を卒業し、就職し、結婚をして、子育てもしているかもしれませんね。全く想像ができないという人も多いでしょう。 imagineだけでいい? 未来を想像するのが大事だからと言って、「大金持ちになる」、「運命の人が急に現れる」、「天才になる」など、あまりに現実からかけ離れた想像をすることに意味があるのでしょうか。ある研究によると、このような現実的でないポジティブな空想は、一時的には幸せな気分をもたらすものの、長期的に見ると逆効果になることが示されています(Oettingen et al., 2016)。つまり、非現実的な願望は、後になって気分の落ち込みを引き起こすというわけです。これは、想像された未来が、現在の状況とかけ離れすぎていて、未来を実現するための行動に結びつかないことが影響していると言われています。他の研究でも、将来は今よりもずっと幸せになると過大評価する人は、正確に幸福度を予測する人よりも、後の身体的・精神的健康が悪いことが示されています(Lachman et al., 2008; de Meza & Dawson, 2021)。ここでの過大評価とは、例えば、予測された10年後の幸福度が、実際の10年後の幸福度よりも高いことを意味します。これらの研究結果からわかるのは、現在とかけ離れた最高な未来を想像していても、行動が促されず、ひいては健康にも悪影響を及ぼす可能性があるということです。 未来と今をつなげる それでは、想像された未来を実現するための行動を促すには、何が必要なのでしょうか?それは、現在と未来の距離を見極め、その橋渡しをするような作業です。これは、
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