振り返ると見えるもの “You can’t connect the dots looking forward. You can only connect them looking backwards. So you have to trust that the dots will somehow connect in your future.” これは、アップルの創業者であるスメンタルコントラスティング(mental contrasting)と呼ばれ、理想の未来に近づくために必要な過程とされています。つまり、単に未来を想像するだけでなく、その未来と今を対比し、何が足りていないかを検討して初めて、進むべき方向性が見えてくるということです。 これを応用して、私は「未来の自分との対話」を行う教育的介入を行いました。参加者は、未来の自分に手紙を書く「往信のみ条件」と、往信の後に、未来の自分の立場から現在の自分に返信を書く「往信+返信条件」に分けられました(図参照)。分析の結果、「往信+返信条件」では、「往信のみ条件」と比べて、未来の自分と現在の自分がつながっている感覚が、介入直後に高まりました。それだけでなく、返信を行った人ほど、介入の1ヵ月後に進路の計画を立てており、遊びよりも勉強を優先する態度が高まっていました。一方で、「往信のみ条件」では、そのような変化は確認できませんでした。ここからわかるのは、未来から現在に向けたメッセージを書くことで、現在との対比が行われ、未来に向かう行動を取るようになるということです。 子どもの頃に、学校で20歳の自分に向けた手紙などを書いたことがあるかもしれません。ただし、この研究の結果から読み取れるのは、未来の自分に手紙を書くだけでは、キャリア教育としての効果が弱いということです。未来の立場から今を振り返る作業を含めることで、有用な教育活動になります。 研究アラカルト 9ティーブ・ジョブズが、スタンフォード大学の卒業式で行ったスピーチの一節です。このスピーチは、“Stay hungry. Stay foolish.”のフレーズで有名なので、知っている人も多いと思います。この一節は、ジョブズが大学で取った文字芸術の授業が、当時は何の役に立つかわからなかったが、後になってMac PCのフォントに生かされたという逸話から来ています。最初はバラバラに見えているものも、振り返った時に初めてつながりが見えてくることを強調しています。 私は、この「振り返って初めてわかる」という現象を、どうにか疑似体験できないものかと考えています。つまり、先ほどの手紙の研究のように、未来から見たら、今はどう映るのかを知ることができれば、より充実した生活を送れるのではないかと思うのです。こういった発想を研究という形で実現すべく、日々試行錯誤しています。皆さんも、10年後の自分が、タイムマシンに乗って目の前にやってきたら何を伝えるか、考えてみてください。
元のページ ../index.html#11