つくばの心理学2023
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川上直秋 社会心理学・社会的認知 かわ かみ なお あき 24 つくばの心理学 2023 研究アラカルト あなたは自分の直感を信じますか? 私はよくランニングをします(多い時は月300キロくらい)。きっかけは、テレビ番組で日本海から太平洋まで日本アルプスを走って1週間以内に縦断するというクレイジーなレースのドキュメンタリーを見たことです。ボロボロになりながらも走り続けゴールを目指す選手たちを見て、いつかは自分もそんな想像もつかないような壮大なレースに出てみたいと感じ、走り始めました。どうやら相性が良かったようで、途切れることなく走り続け、今ではフルマラソンを2時間50分で走れるようになりました。 なぜランニングの話を始めたかというと、私は研究のアイディアがランニング中に思い浮かぶことが多いからです。研究室の机の前に座って、研究のことだけに意識を向けているよりも、それ以外のことをしているとき(私の場合は、それがランニングということ)の方が、意外とひらめきのようなものが舞い降りてきやすいのです(あくまでも個人的な経験です)。そして、そういうアイディアは実際に良いアイディアであることも多いです。 実は、心理学では、特定のことだけを意識的に考えすぎると、むしろ誤った選択をしやすいという傾向もわかっています。それはなぜでしょうか? 人の心にはざっくり分けて、二つのシステムが備わっています。意識と無意識です。実際のところ、五感から入ってくる情報のうち、人が意識できる量というのは本当にわずかしかありません。0.1%くらいとも言われています。例えば、この2,000字程度の文章を読むときにも、普通は一字ずつしか読むことはできません。視界には入っていたとしても、隣のページの文章を同時に読むことは無理なはずです。では、残りの99.9%はどこに行ってしまうのでしょうか?無意味な情報としてスルーされていくだけなのでしょうか? 近年の心理学からわかっていることは、人が意識しない(あるいはできない)情報であっても、意識に上らないだけで、頭の中で無意識に処理されているということです。それもかなり複雑な処理までです。どうやら、一つのことに意識を向けすぎると、心が忙しくなり、結果として良い選択がし

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