はより必要になるのかもしれません。 さて、最後になりますが、私自身はというと、意識と無意識の機能や役割の解明という基礎的な研究に加えて、人が社会生活の中でどのような形で無意識に影響を受けているのか幅広く研究しています。しかし、無意識を研究するというのはとても難しいことです。例えば、どのような情報が意識されやすいかなどは個人差が大きく、統制された状況での実験は困難です。そのため、よく用いる方法は、サブリミナルと呼ばれる一般的に人が意識的に認識することが困難なくらいの短時間で様々な社会的情報(顔など)を見せるというものです。だいたい0.01秒程度の呈示時間です。このくらいの呈示時間だと、確かに見てはいるのだけれど、何を見たかを意識的に認識することはできません。つまり、「無意識に」見ているということになります。それにも関わらず、その後の選択や判断などに影響が現れるならば、無意識にその情報が処理されていたということになるのです。興味を持たれた方はぜひ検索して論文を読んでみてください。 無意識といわれると、人間の限界を思い知らされるようで嫌なイメージを持つ人もいるかもしれません。私はむしろ反対で、この無意識にこそ、人間の可能性が秘められていると考えています。それを信じて、今日も走りたいと思います。 にくいようです。一つのことに意識を向けなくとも、頭の中では無意識が膨大な情報を適切に処理してくれています。例えば、おやつにコンビニでお菓子を買おうと思って、どちらにするか迷ってしまったとき、そういうときはいろいろと考えすぎずに、直感で自分が良いと感じたものを選んだほうが結果的に良い選択である可能性が高いです。もし深く考えすぎて迷ってしまったときには、人間の可能性を信じて直感に任せることも大事なのかもしれませんね。 このように意識と無意識という視点から人間の心を考えてみると、自分で「わかっている」と思っていることはとても限定的であり、正確かどうかさえ怪しいことがわかります。極端に言えば、自分自身のことすら、自分ではわかっていない部分が多いのです。例えば、「あなたはなぜこれを選んだの?」の聞かれた場合、おそらくその理由を答えることができます。でも、本当にその理由が正しいかどうかは実際のところ本人にもわからないのです。Appleの創設者であるスティーブ・ジョブズはこんな言葉を残しています。「消費者に欲しいものを聞いて、それを与えるだけではいけない。多くの場合、人は形にして見せてもらうまで、自分は何が欲しいのかわからないものだ」。これはまさに人間の本質を突いた言葉といえるでしょう。人の無意識に訴えかけるような、本人がまだ気づいていないような価値を生み出すことがこれからの社会で 研究アラカルト 25
元のページ ../index.html#27