つくばの心理学2023
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動を取りにくくなってしまいます。かといって、マインドと戦おう、打ち負かそうとすると、実はかえって思考の沼にはまりこんでしまいやすいのです。そこで、自分を苦しめる思考や感情に気づき、受け入れることで、本来の自分らしい行動を取る余裕を作ろう、というのが“アクセプタンス”の考え方です。 ただ、“アクセプタンス”は実際やろうとするとなかなか難しく、コツや練習が必要です。最後に挙げた参考図書のように、自分で読み進められるワークブックもありますので、気になる方は読んでみてください。 さて、ACTで価値やコミットメントの話をするときに強調されるのは、“価値とはコンパスの針の方向を示すものであって、ゴールではない”ということです。コンパスが西を指しているとき、“西”ってどこでしょうか? 歩いて行っても、そこにはまだ西を指しているコンパスがあるだけですよね。私たちにできるのは西に到達することではなく、指し示す方向に向かって一歩一歩歩いていくことです。(正確には、南極点や北極点はコンパスの“ゴール”と言えるかもしれないのですが、まあそこはあくまで比喩なので大目に見てください) つまり、自分の“価値”のことを考えるとき、自分がそれに見合った人間かどうか、将来そうなれるかどうかは重要ではありません。でも、今の自分にできる“価値に沿っ 研究アラカルト 27セラピストが10代のあなたにすすめるACTワークブック ジョセフ・V・チャロッキ他(著)武藤崇(監修)星和書店(2016) た行動”を明確にし、実践することが、生活を充実感のある自分らしいものにしてくれます。「目標に向かって努力」を重視する人なら、その時打ち込んでいる活動を続けることが当てはまるかもしれません。「人の役に立ちたい」人なら、勇気を出して電車の席を譲ってみるのもよいでしょう。その価値にふさわしい立派なことではなくても、今の自分にできる行動を日々続けていくのが、“コミットメント”です。 私は、ACTのこの“コンパスの方向に向かって一歩踏み出す”という考え方が好きで、研究をする中でも折に触れて思い出すようにしています。研究は、まだ知られていないことを探求し、発見したことや自分の考えを同じ分野の仲間や社会に向けて発信していく活動です。喜びを得られることもあれば、勇気や忍耐を試されることもあります。時には、自分のマインドが「こんなことを研究しても意義がないんじゃないか」「自分にはできないかも」「認めてもらえないかも」なんてささやいてくることもありますが、そういうときこそ自分の“価値”の在り処を確かめて、今日できる行動を実践することが、明日の自分を元気にしてくれると信じています。 【参考図書】

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