つくばの心理学2023
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水野雅之 発達臨床心理学・キャリア心理学・心の健康教育 みず の まさ し 30 つくばの心理学 2023 研究アラカルト 心の健康を考える みなさんは心の健康について、どのようなことを知っているでしょうか。うつ(病)やカウンセリングといった言葉は日常的に使われており、聞いたことがないという人の方が少ないと思います。しかし、うつ(病)といった状態(症状)がどのような状態なのか、カウンセリングではどのような支援を受けることができるのか、これらについて自信を持って答えることできる人は、それほど多くはないでしょう。 私の主な研究テーマはメンタルヘルスリテラシーです。メンタルヘルスリテラシーとは、ヘルスリテラシーの中でも、特に心の健康(メンタルヘルス)に関するリテラシーのことを指します。より専門的には、精神疾患の認識や管理、予防に関する知識と信念と定義され(Jorm, Korten, Jacomb, Christensen, Rodgers, & Pollitt, 1997)、「疾患の認識に関する能力」、「原因に関する知識と信念」、「自己対処の方法に関する知識と信念」、「専門的支援に関する知識と信念」、「認識や援助要請を促す態度」、「情報の入手方法に関する知識」の6つの構成要素がある(Jorm, 2000)とされます。つまり、冒頭で述べたような、うつ(病)とはどのような状態(症状)か(「疾患の認識に関する能力」)、カウンセリングではどのような支援を受けることができるのか(「専門的支援に関する知識と信念」)などについての知識を、メンタルヘルスリテラシーとよびます。 では、メンタルヘルスリテラシーを持つことには、どのような良いことがあるでしょうか。まず、メンタルヘルスリテラシーが高い人ほど、自分の不調に気づきやすく、その不調に対して何らかの対処をとりやすいと考えられます。メンタルヘルスリテラシーは、他者へ援助を求めることを促す要因として捉えられ、専門的な援助を求めることに対する肯定的な態度と関連があります(児玉他,2018;Velasco et al., 2020)。また、メンタルヘルスリテラシーを持っていることによって、周囲の他者の不調に気づきやすくなったり、気づいたときに援助の手を差し伸べやすくなるとも言えます。

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