Kitchener & Jorm(2002)は、メンタルヘルスリテラシーの向上は精神疾患をもつ相手との心理的距離を縮めることや、その相手を支援できるという感覚と実際の支援行動を増加させることを明らかにしています。私の研究においても、発達障害に関するメンタルヘルスリテラシーを持っている大学教員ほど、発達障害の学生に対して支援を提供しようとすることが示されました(水野,2022)。 そして、重要なポイントは、メンタルヘルスに関する知識は、特別な人にとってのみ必要な知識ではないということです。世界規模の疫学調査によると、一生涯のうちになんらかの精神疾患に罹患する割合は先進国において17~49%であり、日本では約4人に1人(24.4%)が精神疾患に罹患することがわかっています(Kessler et al., 2007)。すなわち、心の健康を害してしまうことは非常に一般的な問題です。そのため、メンタルヘルスに関するリテラシーは自分の心の健康のためにも、自分の周囲の大事な人の心の健康のためにも必要不可欠なリテラシーであると言えます。 メンタルヘルスに関する知識を学校段階で教育しようという動きが国際的に広がっています。たとえば、カナダやオーストラリアでは初等・中等教育のカリキュラムに、精神保健教育が明記され、カナダでは6~18歳の生徒を、オーストラリアでは主に12 研究アラカルト 31ても、必修科目ではないものの、ほぼすべての学校において精神保健教育が行われているそうです(吉村,2019)。 実はこのような動きが日本においてもみられています。日本では、2018年の高等学校の学習指導要領の改訂により、2022年度から保健体育の教科の中で「精神疾患の予防と回復」が扱われることになりました。学習指導要領の本文には「精神疾患の予防と回復には、運動、食事、休養及び睡眠の調和のとれた生活を実践するとともに、心身の不調に気付くことが重要であること。また、疾病の早期発見及び社会的な対策が必要であること」と述べられています。このように「精神疾患」が公教育の中で取り上げられるのは、約40年ぶりのこととなります。 私は学生相談室の常勤カウンセラーという立場から、新入生を対象とした「ファーストイヤーセミナー」の授業の一部で、心の健康について講義させていただく時間をもっています。心の健康に関する授業が役立たないことが一番ですが、いざというときには思い出してもらいたいと思っています。そして、もし、心のもやもやが晴れず、誰かに話を聞いてもらいたいなというときには、ぜひ学生相談室へお越しください。 ~18歳の生徒を対象に精神保健教育が実践されています(吉村,2019)。また、イギリスの初等・中等教育(5~18歳)におい
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