小川 緑 感覚知覚心理学 お がわ みどり 36 つくばの心理学 2023 研究アラカルト 自分の鼻を信じて 正直なところ、大学で研究を行う今の自分の生活は全く考えたこともない未来だった。大学入学前は心理学=臨床心理学だと思っていた。だが、大学入学後に出会った「心理学」は私の想像していたものとは違っていた。特に興味をひかれたのは認知心理学の記憶の話だ。目には見えない記憶を研究するための実験手続きの工夫の数々。すごい面白いじゃないか! 自分もこんな実験を考えられるだろうか、考えてみたい、そう思い、卒業研究には迷わず、認知心理学のゼミを選んだ。4年間では物足りないと思い始めたころ、ありがいたいことに院進学の選択肢を両親から与えてもらえた。進学しようと決めたが、進学先はなかなか決まらなかった。というのもの、とにかく実験をやりたいとは思ったが具体的に何を研究したいのかは決められていなかったためだ。何か面白そうな研究をしているところ、漠然とした希望のもと、様々な大学院のHPの教員紹介を見ては、なんか違うと失礼なことを思っていた(今考えると大学院でも当時の指導教員の指導を受けることを少しも考えず、他大学に進学しますと宣言したことも失礼である)。そうした中で、「嗅覚心理学」の文字を見つけた。それがどんな分野か正直よくわからなかったが、とにかく「絶対に面白い」と思った。これだ。 かくして進学(希望)先を決めたが、「絶対に面白い」嗅覚心理学がどのようなことを研究する分野なのかよくわからない。とにかく「嗅覚心理学」とは何かを知らなければと、odor psychologyと大雑把なキーワードで検索をして、出てきた先行研究を読む。いくつかの先行研究を読み、「絶対に面白い」と感じた私の「嗅覚」は正しかったと確信した。 興味を惹かれるトピックは様々あったが、特に惹かれ、今でも執心しているトピックは、「ニオイの経験がその後のニオイの知覚に与える影響」である。同じニオイでも人によって全く感じ方が違うということがあるが、それは個々人がそれまでに経験してきたニオイが違うからに他ならない。どのようなニオイの経験がどのようなニオイの知覚を導くのか。当時、ニオイの知覚を文
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