たしたちにも刻み込まれ始めています。 脳やホルモンといった体の内側の話と、アントロポセンがなぜ関連するかと思うかもしれません。そもそも内分泌系は気温や光などが大きく変化する外界の環境から体を守るための機能です。なので、外界の環境が変化すれば、それに適応するために内分泌系は調整をしようと働きます。お腹が減ったら食べたくなるのも、暗くなったら眠くなるのも、目の前に魅力的な繁殖相手がいたら興奮するのもホルモンのせいです。裏を返せば、外界の変化が深刻で、ホルモン調節に歪みが生じると、睡眠や食事や社会性、果ては気分にも問題が起こります。ですので、ホルモンに影響されている生殖能力や社会行動にアントロポセンの痕跡があることを示せれば、少しは自分事として感じられるようになるのではと考えています。 とはいえ、この原稿を書くために深夜に明かりをつけ、空調の効いた部屋で、コンピューターを開き、地球の裏側から運ばれたコーヒーを何杯も飲んでいるのですから、私自身もまだ自分事にはできていません。それでも、100年後の地球のことを考えて「ぎゅっ」となる日が来たらいいなと思います。 【参考図書】 愛が実を結ぶ時 岩波書店 特に生得的な社会行動は性差がある行動が多いので、どうやってその差をホルモンが作りあげているのかを知りたいと思っています。 ところで実験でマウスばかりを見ていると、人間も変わらないなあと思うことがたくさんあるのですが、マウスを見れば見るほど「愛情」って気のせいじゃないかとも思います。結局のところ、何かに興奮して体のどこかが「ぎゅっ」となった時、あるいは「ぎゅっ」とした時に興奮している=好きだと脳が判断した時に、それを好きとか大事だとか認識させているのではないかと。そうだとしても、母マウスが10匹以上の仔マウスに授乳して温めているのを見ると、ホルモンやるじゃん、と思います。 最近はアントロポセン(人新世)が、興味を持っているキーワードの1つです。アントロポセンとは、人類の活動が地球の地質や生態系に与えた影響で定義される地質年代の呼び名です。「土を耕す」という農耕牧畜の時代に始まる広義のアントロポセンもありますが、専ら化石燃料を採掘するようになった時代を指す狭義のアントロポセンが議論の中心になっています。照明で明るい夜、気候変動で乱高下する気温、マイクロプラスチック、人の活動に伴って広まった外来種など、アントロポセンの痕跡はいわゆる自然の生態系だけではなく、わ 研究アラカルト 45
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