援助要請という現象を理解する材料が徐々に蓄積されてきているように思います。 さて、ここまでを前置きとして、以下本題、私の関心分野である留学生の話に入ります。 留学生は母国から離れ、高等教育を受ける目的で母国ではない国(以下、ホスト国)に渡る外国人学生のことを言います。文部科学省の外国人留学生在籍状況調査によると、日本には2020年5月1日時点、279,597人の外国人留学生がいます。筑波大学には100カ国強から2,000人以上の留学生が在籍しています。留学生はホスト国に渡り異文化に適応する中、多様なストレスが原因で現地学生よりもメンタルヘルスの問題を抱えやすいと報告されていますが、彼らは現地学生に比較して心理専門家による援助資源の利用率が低いことも様々な研究で報告されています。留学生にとって、異国で援助要請するにはさらにバリアが高いということです。 文化心理学では、文化と心は切り離しがたいものと考え、人間の行動や心性が文化の影響を受け、人間は文化を作り出していると考えます。援助要請行動を文化的な行動として捉えると、ある文化に属する人々は特定の援助要請行動の特徴を持ち、それがその集団の文化に影響されます。このような考え方のもと、アジアの文化的価値観が援助要請に与える影響が注目されてきました。一方で、彼らの援助要請は生まれ育っ 研究アラカルト 3援助要請と被援助志向性の心理学――困っていても助けを求められない人の理解と援助.水野治久監修 永井智・本田真大・飯田敏晴・木村真人編 金子書房 2017年 た文化だけに影響されるわけではなく、ホスト文化にも影響されるのです。また、これらの文化的規範の影響に加え、言語面をはじめ、費用の心配、既存資源への認識不足などといった現実的な制約にも留学生の援助要請が大きく影響されると考えられます。このように、留学生の援助要請には複雑な要因が絡んでおり、しかも留学生の滞在期間によってこれらの要因の影響程度が流動的である可能性も考えられます。このように、文化という要素をいかに取り込み、また彼らの流動的部分をどう捉えるかが課題であり、これらの要素を包括するような理解の枠組みが必要と考えています。そのためには、これまで特定の地域・文化圏といった空間的基準に基づくパラダイムには、限られた集団に関する知見しか蓄積されず、全ての集団の特徴を明らかにすることが現実的に不可能です。また、文化圏内の差異や国内の地域差などを無視せざるを得ないという問題も避けられません。どのようにしたら、この非常に多様性に富んでいる母集団が扱えるのか、留学生の援助要請を捉えるためのパラダイムの転換が期待されています。この課題は私が現在取り組んでいる課題の一つです。 【参考図書】
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