つくばの心理学2023
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してきました。 もう少しわかりやすく例を示すならば、「いつも人から責められているように感じて人と関わるのが怖い」という訴えをするクライエントにとって、アクチュアルな視点からアドバイスしてもおそらく奏功しないでしょう。「人から責められている」「怖い」という感覚をリアルなものとして受け止め、寄り添うことでその人のリアルな世界に関わることができるのです。この世界は人の数だけ(いや、それ以上に)リアルな現実が存在しているといえます。 「リアル」な世界をまなざす 心理臨床に関わりたいと思う人にとっては、クライエントをはじめ他者が生きるリアルな世界へのまなざしを持つことが大切です。そのためにはどうするか。臨床心理学だけにとどまらず様々な分野を勉強してみることもそうですが、いろんな物語に触れる、映画を見る、アートに触れる、友達と遊びに行く、自分の世界に沈潜してみるなどいろんな体験を自分でしてみることが、他者のリアルな世界をまなざす助けになると思います。こういった現実の多次元性・多層性については、心理学だけでなく哲学や文学、社会学などいろんな方面からも考えられるでしょう。あなたも多層的で「リアル」な現実について一度考えてみてはいかがですか? それではまた一つ視点を変えて考えてみましょう。「リアル」と「アクチュアル」の問題です。ここで言う「アクチュアル」とは、「現実の」とか「実在の」という客観的な事実として存在するものを意味します。一方、「リアル」とは「自分の実感が伴う現実感」を指しています。私たちが生きる世界は客観的事実としての「アクチュアル」なものだけでなく、「リアル」なものからも構成されているはずです。たとえば、大好きな推しアイドルは「アクチュアル」な世界では、単に「歌って踊れるイケメン(イケメンもアクチュアルなものか難しいところ。笑)」かもしれないですが、「リアル」な世界では「自分の人生を支えてくれるような光り輝く大きな存在」なのかもしれません。よくよく考えてみれば、私たちは「リアル」な体験から自分の世界を構築しているともいえるのです。 これに関わる考え方を1つ紹介しましょう。19世紀の終わりに精神分析を創始したフロイト(Freud,S.)は心的現実(psychic reality)という考え方を提示しました。これは、物理的現実と対比させたもので、患者にとっての心理的、体験的な現実のことを指しています。フロイトは物理的・客観的な事実と同様に(あるいはそれ以上に)、患者が感じ、語っている主観的な体験をリアリティを持つ大切なものととらえ、重要視 研究アラカルト 57

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