つくばの心理学2023
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り、テスト結果から何を学べばいいのか、明らかではありません。個人の勉強をサポートするためには、その時の個人にできること・できないことを明らかにできるテストが必要でしょう。しかし、単純にできなかった問題をできるように復習することは効率的な勉強になるとは限りません。テストの結果から、一体何を学べばいいのかは人によって違いますし、次に何を学べばいいのか、どういった能力を伸ばせばいいのかを、テスト結果は必ずしも親切に教えてくれません。 私が研究している、認知診断モデル(cognitive diagnostic model)あるいは診断分類モデル(diagnostic classification model)と呼ばれる統計モデルは、テスト合計点や部分点からはわからないような、個人の強みや弱みを推定するために利用されるモデルです。例えば、分数の問題を解くために、“通分”や“約分”といった細かい能力を同定し1/3 +1/2という問題には、“通分”のみが必要だなといった問題と能力の関係を特定しておきます。これはとても単純化した例ですが、こうした問題を使うことで、“通分”のみができないのか、“約分”ができないのか、といったことを詳細に検討できるようになります。 もちろん、このモデルを利用するためには、様々な条件があり、誤って利用してしまうことで、“誤診断”につながってしまう可能性もあります。認知診断モデルをどう 研究アラカルト 63すれば使いやすくできるのかを日々考えて、新しい推定方法やモデルを開発したり、実践的に活用する方法論を開発するのが私の研究の内容になっています。 テスト研究への招待 このように、テストは身近ですが、その裏に様々な数理的なモデルや想定があり、様々な研究がなされています。現実との接点を考えながら、しかし数理的に現象を表し、“使える方法論”を作るというのは、大変ですがとても意味があることだと思います。テスト研究は世界中でなされていますが、この文章の中では到底書ききれないほど解決しなければならない問題に満ちあふれています。 また、テスト研究は数理的・統計的なモデルについての側面だけでなく、実際にどのようにテストを運用していけばいいのかといった話や、テストのコンテンツをどうすればいいのかといった実際的な問題も含みますし、さらに、そもそもテストで能力を測定するということはどういうことなのか・想定された能力はテストで十分に測定されているのかという少し哲学的な問題も内包しています。その意味で懐の深い研究領域で、研究すればするほど研究しなければならないことが多くなっていく不思議な分野です(個人の感想です)。この短い文章でテスト研究に興味を持たれた方がいましたら、ぜひともご連絡ください。テスト研究の世界に飛び込んでみませんか?

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