つくばの心理学 2021 14 の人々を巻き込んで巨大な流れを作り出し得ることを示す好例と言えます。 インターネット上の世界において特に重要なのは、誰もが「774」でいられる…つまり「名無し」でいられるという「匿名性」です。匿名的な状況下では、自分の名前や正体を明かすことなく他者と交流することが可能です。またそれゆえに、どんな発言・行動をしたとしても、自分と関連付けられることがありません(こちらは、アンリンカビリティとも呼ばれます)。こうした状況では、人々の認知・感情・行動は大きく変化し、普段からはかけ離れた大胆なものになることが過去の研究で明らかにされてきました。先ほど紹介した「241543903」に関しても、非常に多くの人々が賛同した背景には、きっと、「頭を冷蔵庫に飲み込まれた」=「顔が隠された状態であった」ことが関わっているのではないでしょうか。 一方で、インターネット上の匿名性に関しては、心無い誹謗中傷を巻き起こし、トラブルや犯罪の温床となるというイメージが広まっているのも事実です。こうした懸念からか、近年では、インターネット上であっても実名や顔写真を掲載し、匿名であることを自ら避けて交流する人々も増えてきました。匿名状況でのコミュニケーションが、子供たちに対して有害な影響を及ぼすと考える研究者・専門家も少なくありません。 しかしインターネットが我々に対して及ぼす影響は、むしろ、それを使う我々の「556」…すなわち「心」のあり方によって決められるのではないか、というのが私の研究テーマです。インターネットや匿名性は、それ自体が良い影響または悪い影響をもたらすわけではなく、「インターネット上でどのように行動しているか」、また、「どのような性格傾向の持ち主が利用しているか」―これこそが、その影響を決める重要な要因ではないか、という視点から研究しています。実際、私が行った研究では、オンラインゲーム(仮想的なゲーム世界で、一人のキャラクターとして振舞い、普段の自分を知らない人々と触れ合える)のユーザにおいても、「ゲーム上の交流を通して、元々社交的な人はさらに社交的になる一方で、非社交的な人はますます非社交的になっていく」という結果が示されています。 インターネットの発展は目覚しく、今後どのように展開していくか、そして我々にとってどのような存在となっていくかは予想すらつきません。しかし激変する情報社会の中を、リアルタイムに生きる皆さんの感性こそが、インターネットにまつわる様々な問いを解く鍵になるはずだと感じています。そんなわけで授業や演習では、活発な意見を「4649」です!
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