つくばの心理学 2021
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つくばの心理学 2021 18 などの目立った攻撃はあまり行わなくなり、逆に関係性攻撃など目立たない微妙な仕方での攻撃が多くなります。ですから外から見える行動傾向に着目して攻撃性の個人差を捉えることは、青年や大人では正確さを欠く危険性が高くなります。そこで筆者は個人の中で攻撃行動を促進する内面的特性に注目し、先に紹介しました能動的攻撃と反応的攻撃に対応するそれぞれのパーソナリティ傾向-能動的攻撃性(proactive aggressiveness)と反応的攻撃性(reactive aggressiveness)-の個人差を測定する尺度を中学生・高校生用に作成しました。 能動的攻撃性には仲間支配欲求(仲間を支配し、自分の思うように働かせたいという欲求の強さ)、攻撃有能感(他者ともめた時に、攻撃的に振舞えば、自分に都合よく問題が解決するという自信の強さ)、欲求固執(他者を押しのけてでも、自分の欲求の充足を優先させようとする傾向)、攻撃肯定評価(攻撃行動の有害さや不当性を過小評価する傾向)の4特性が含まれます。中学生603名、高校生2,010名を対象とした調査から、この4特性は仲間支配欲求と攻撃有能感、欲求固執と攻撃肯定評価の2グループに大別されることがわかりました。前者は仲間を支配することへの欲求の強さと攻撃行動で他者を抑えられる自信の強さを表しているので「人志向的」能動的攻撃性と名づけられています。これは「イジメ」加害者に典型的に見られる心性でしょう。後者は、他人の欲求をかえりみず自分の欲求の充足を優先させ、攻撃行動の使用を正当化する傾向を表しており、「物志向的」能動的攻撃性と名づけられています。これは自分本位で人を傷つけてもかまわないという利己主義的で「ジコチュー」な心性と言えます。一方、反応的攻撃性には怒りと報復意図の2特性が設けられています。怒りは、怒りっぽさ、引きおこされる怒りの度合いの強さ、長引きやすさを表しています。報復意図は、自分が何か嫌なことをされたときに、相手にしかえしをしたいと思う欲求の強さを表します。反応的攻撃性は少しのことでも強く持続性の高い怒りを引き起こされ、相手に仕返しをせずにはいられない傾向の強さを表すもので、「キレ」という言葉で表現されてきた心性を表すものと言えるでしょう。現在、私の研究室では、中高生や少年院の生徒を対象に、青年の攻撃性から発する様々な問題を研究しています。青年の攻撃性から発する問題は、キレとイジメとジコチューの3者が織り成す破壊的なワルツであることが解明されつつあります。 【参考図書】 攻撃性の行動科学(発達・教育編) 山崎勝之・島井哲志(編) ナカニシヤ出版 2002年

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