研究アラカルト 21 私は臨床心理学を専門としています。臨床心理学は、心理学のさまざまな分野の中でも応用心理学の1つであり、学術的な知見を実際に応用して、社会的な善の実現に貢献することがその使命だといえます。私の研究と実践は、臨床心理学の中でも犯罪者や非行少年、特にアディクション(薬物依存症や性的依存症)の人たちを対象としているため、かなり特殊な人々を相手にしているといえるかもしれません。 日本ではこの分野の専門家が非常に少ないのですが、欧米ではとても多くの心理学者が活躍しており、多くの優れた業績を残しています。これは、わが国に比べて欧米社会のほうが、犯罪やアディクションの問題がはるかに深刻な状況にあるからであり、この意味では日本社会はまだずっと健全な社会であるといえるでしょう。 その反面、日本の犯罪心理学の専門家にとっては、活躍の場が限られているということでもあり、良いような悪いような状況であるといえるかもしれません。犯罪心理学者は、もちろん犯罪が起こるのを待ち構えているわけではありませんので、犯罪が少ないに越したことはありません。しかしその反面、研究の対象が外国に比べて少なく、実践の場も限定されているということは、十分な貢献ができないということにもなりかねず、ここにわれわれの抱えるジレンマがあります。 そのような中、思わぬ大きな仕事を引き受けることとなりました。それは、私の専門を生かしての国際貢献の仕事です。私はかねてから、心理学のほかに、途上国支援や国際貢献にも大きな関心を持っており、国際協力機構(JICA)に関わったり、国連で仕事をしたりした経験がありました。そして今回、首相官邸からの依頼でフィリピンの薬物問題を支援する仕事をすることになったのです。 大きく報道されたためご存知の方も多いと思いますが、2016年6月に就任したフィリピンのドゥテルテ大統領は、「薬物戦争」と称し、薬物撲滅に向けて薬物使用者の殺研究アラカルト 心理学による国際支援 原田隆之 臨床心理学・犯罪心理学 はら だ たか ゆき
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