つくばの心理学 2021
35/66

つくばの心理学 2021 34 る複数のテストにおいて有意な得点の上昇があることが明らかにされました。コミュニケーションの量的な違いにおいては、「1対2群」において一番、得点の上昇が見られました。 <結果を考察する> これらの結果をどのように考えていけばいいのでしょうか?確かに、音読・計算という活動は、脳の活性化だけではなく、認知機能の活性化にも貢献していそうです。しかし、その効果は、コミュニケーションの程度によっても影響を受けています。なぜ、「1対2群」で効果がもっとも高かったのでしょうか。 さらに、音読・計算の効果は、「音読・計算の実施→脳の活性化→認知機能の高まり」という単純な図式ではなさそうです。認知機能の高まりには、コミュニケーションだけではない、音読・計算の実施に付随する様々な要因がかかわっているということが予想されます。果たして、それは、どのような要因なのでしょうか。 このように一つの研究を「きっかけ」に、次々と、いろいろな研究上の課題が生まれ、それを検討するためにまた、新たな研究が計画され、実施されていくのです。 <研究の展開> 上記に続く研究は、私の前任校である立命館大学でのフィールドを使って現在も行っています。もとより、長期にわたるこのような大きな研究は、研究者一人でできるものではなく、目的を一にする研究者が集まりプロジェクトを組み、また、大勢の研究協力者の協力の下で成り立つものです。例えば、このプロジェクトの最初の年は、研究対象者は、特別養護老人ホームの入居者20名程度で、研究協力者も20名程度でした。さらに、2年目以降に行った、先に紹介した研究の対象者は、対照群も含めて80名近くに及び、研究協力者も40名近くに及びました。このように、大勢の方の協力なしには、成り立たないのがこのようなフィールドを用いた研究です。 さて、研究の展開ですが、先に研究対象となった方については、規模は縮小しましたが、現在に至るまで、継続的に、音読・計算を実施し、その経年的な変化を追跡しています。 これらの一連の研究で、認知機能に及ぼす、音読・計算の実施の効果については、確信が得られたため、現在は、大学近隣の住民の方にサポーターとして協力いただき、行政の協力も得て、在宅の高齢者を対象とした研究へと、研究対象の幅を広げていっています。このことは、音読・計算を実施することでの「認知症予防の可能性」という意味合いにおいては、地域貢献的な役割も担っているように思っています。

元のページ  ../index.html#35

このブックを見る