つくばの心理学 2021
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つくばの心理学 2021 36 んから嫌味を言われたり、一方的に転勤を言い渡されたり… 職場という環境には、どうしてもストレスがつきまとってしまうものなのです。 私は、職場に存在するこのようなストレスから身を守るためのさまざまな方策について検討しています。具体的には、働く人たちがストレスにどのように対処していけば健康をそれほど害さずに済むか、うつなどにかかってしまった場合、どうしたら早く職場に復帰できるか、そもそも職場に存在するストレスをどうしたら減らすことができるか、などです。皆さんも何度か経験があると思いますが、人間はストレスがかかるとどうしても他人に厳しいことを言ってしまったり、態度が冷たくなってしまったりします。職場のストレスでイライラしていると、それを家族にぶつけてしまい、家庭内がギスギスするというのもよくあることです。 一方、最近私は、働く人たちをいきいきとさせるための方策についても研究を進めています。というのも、働くということは決してマイナスの要素ばかりではないからです。例えば、働くことによって、私たちは新しい知識や技術を身に付けたり、仕事をしていなければ知り合うことのなかった人たちと人間関係をつくることができたり、自分の価値観と合う仕事ができたり、他人から感謝されたりします。意外かもしれませんが、人間が幸福を感じられる要素も、実は職場には数多く存在しているのです(もし、このような内容についてもっと詳しく知りたい方は、同じ思いをお持ちの先生方と執筆した『職場のポジティブメンタルヘルス:現場で活かせる最新理論』(誠信書房)をお読みください)。 私自身は、大学院生時代から、職場のメンタルヘルスに関する研究を行っています。と同時に、実際に職場に入り込み、カウンセリングや研修などの実践も行ってきました。私はあまり人に自慢できるところはないのですが、唯一胸を張って言えることは、いままで自分が担当させていただいたケースの中で、自殺者を出したことがないということです。こんなことはあえてここに書く必要はないのですが、今後もこのことが嘘にならないように、自戒の念を込めて記しておきたいと思います。 働く人を一人でも多く幸せにしたい、目の前の人だけでなく、その周囲にいる人々、さらには、その人からつながっている後世の人々を一人でも多く幸せにしたい、こんな思いを皆さんに少しでも持っていただけたらありがたいと思います。そうすれば、きっと世界は誰にとってもよりよいものになっていくはずです。

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