つくばの心理学 2021
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研究アラカルト 37 みなさんは、心理学をどのようなイメージでとらえているのでしょうか。やさしく微笑むカウンセラーの姿?実験者が、実験に参加する人たちに何かをさせている光景?あるいは、白衣を着てさまざまな装置と実験動物に囲まれている研究者の姿? 心理学の世界というと、面接をしたり、心理テストを実施したり、動物や人間を相手に実験をしたり、アンケートに答えてもらったりと、データを取って分析する学問の姿が頭に浮かぶかもしれません。 でも実際には、データを取る前に、紙と鉛筆を前にして、いろいろ考えている時間も長いのです。 心理学の研究対象は見えない世界 心理学も科学のうちの一つですから、自らの対象と方法をもった知識の体系ということになります。ところが、心理学の研究対象は、形のないもの、見えないものがほとんどです。 たとえば、自分の心、相手の心、その場の雰囲気、未来、人間関係、悩み、人の思い…。心理学の用語で見ても、意識、性格、感情、意志、知性…、知りたいものは、目に見えないものばかりに見えます。私の好きな青年心理学という領域では、青年を理解するのには青年の感情からアプローチするのが有効であるとの考えがあり、感情についての研究がたくさんあります。感情も、怒りや喜びのようなクッキリした激しい情動から、倦怠感や感傷のようにうすぼんやりした気分というようなものまでさまざまですが、もちろん見えません。 このような感情という現象を心理学的な方法論を使って研究するには少し努力が必要です。見えない世界、あるかないかもあてにならない世界を研究するのですから。 見えない世界を言葉で切り取る 感情は主観的に感じられるものであり、それを客観的に取り出すのは難しいことです。行動指標や生理的指標で人間の多様な感情を表すことも、現段階ではまだ難しそう…な気がします。 そこで、言葉でその感情を描写してみる、研究アラカルト 見えない世界を言葉で切り取る 佐藤有耕 青年心理学 さ とう ゆう こう

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