つくばの心理学 2021 38 つまり心理学的に定義することになります。定義とは、“一般的には、日常生活、諸科学において用いられる概念の内包を、明確に与えることを定義と呼ぶ。概念の外延を与えることは、普通、「区分」と言われる。(現代哲学事典、1970)”ということです。 定義をするには、深くその現象を理解していないとできません。研究を始めるにあたって、きちんと定義ができているということはまれです。よい定義は、研究したあとにできるものですから、研究を始めるにあたってはその現象をある程度説明できていれば良しとするのが現実的でしょう。 孤独感(loneliness)を例にしてみましょう。心理学では、以下のような説明がよく引用されています。Peplau&Perlman(1979)の記述を、工藤・西川(1983)がまとめたものに準拠して書きました。“孤独感は人の社会的関係のネットワークが、その人の願望より小さいか心理的な満足感を低下させる時に生起する。すなわち、孤独感は、人間の社会的相互作用における願望レベルと達成レベルの間の食い違いから起こると定義される。孤独感は不快なかつ主観的な経験であり、客観的・物理的にはaloneな状態であったとしても、主観的・心理的にはlonelyではないということもある。” 孤独感についてのこの説明は、とてもよくできていると思います。恋人としてつきあってほしいと告白したのに、相手から今まで通りよいお友だちでいましょうと言われたあとのさびしさ、自分が唯一無二の親友だと思っていた相手が、自分のことを友だちの一人としてしか見ていなかったことがわかったときの自分だけ取り残されたような感じ、そのような孤独感がリアルにイメージできるように思います。 もちろん、心理学の研究では、孤独感を上手に言葉で描写することだけが目的ではありません。その孤独感を測定するための心理学的な尺度や質問票を開発し、孤独感を量的に測定し、孤独感の特徴を検討していくことも重要です。 文学のようなサイエンス 雑多な世界の中から、ある一つの現象を言葉で切り取ることは、やろうとすると難しいことです。でも、他者とその現象を共有するには、言葉でその現象を描写しようとする努力が不可欠です。 そのためには、見えないものを見ようとする力や、見えないものを自分なりに再構成して言葉で表現する文学的センスのようなものが必要に思います。 21世紀の大学生には、あいまいで非科学的な話に聞こえたかもしれませんね。もし、言葉を用いた科学の世界に興味がある人がいましたら、そういう古き良き心理学の世界にも立ち寄ってみませんか。
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