研究アラカルト 39 オリバー・カーン(Oliver Kahn)という名前を聞いたことがあるでしょうか。 日本と韓国で共同開催された2002年のワールドカップにおいて、ゴールキーパーとしては初のMVPに輝いた、伝説的なサッカー選手です。 時には、弾丸のように飛び出してセービングし、時には、鬼のような形相で大声をあげ味方を鼓舞する、ドイツの守護神。 同僚からも「この世で怖いものは戦争とオリバー・カーン」といわれるほど、威風堂々たる存在感を放っていました。 そんなカーンの印象的な風貌からでしょうか。ドイツのコメディアンから、「カーンの行動はまるでゴリラのようだ!」と評されたこともあったほど。見た目からは、不安やプレッシャーなどとは無縁に思えるかもしれません。ところが、そんな彼も以前には不安に押しつぶされそうになったことがあったそうです。 彼は、ゴールキーパーの抱える不安の大きさを次のように語っています。「ゴールキーパーにどれほどのストレスがたまるか、甘く見てはいけない。走ることもできないし、ゴール前にただ突っ立っているだけなのだから」。 しかし、カーンはその不安を、ポジティブにとらえることにしました。「不安があるからこそ、集中できるんだ」、「不安に押しつぶされる選手もいるが、俺は不安だからこそ動けるんだ。プレッシャーこそが俺を突き動かす原動力なんだ」。そう考えるようにしたのです。 このオリバー・カーンのとらえ方は、私の専門である認知行動療法(cognitive behavior therapy)の考え方に通じるものがあるように思います。 認知行動療法とは、クライエント(患者、相談者)のものの考え方や行動の仕方、感情、身体の状態に注目し、クライエントのかかえる問題を、カウンセラーがクライエントと協力しながら解決を図っていく心理療法です。カウンセラーはクライエントと二人三脚でカウンセリングを進めていきま さわ みや よう こ 研究アラカルト ゴールキーパーの不安 沢宮容子 臨床心理学
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