つくばの心理学 2021 40 すが、最終的には、クライエントが自分自身のカウンセラーとなり、独力で問題が解決できるようになることをめざします。 オリバー・カーンの場合、「不安は、自分を押しつぶす」という“不安”についての考え方を、「不安があるからこそ、集中できる」と変えることによって、不安を軽減することができたのだと思います。それにより、筋肉の過度な緊張を低減し、身体能力を最大限に活性化することができたのでしょう。まさに、カーン自身が自分のカウンセラーとなって、不安という問題を解決したように思えます。 かく言う私自身も、本来は不安や緊張が高いほう。社交的ではないし、人前で話したり、発表したりすることも、苦手でした。最初に心理学の授業で教壇に立った時には、前から2、3列目までの学生としか、視線を合わせられなかったくらいです。もう何十年も前のことですが。 でも、「完璧に話せなくてはいけない!」という考え方を、「完璧でなくてもいいから、とにかくベストを尽くせばいい」という考え方に変え、さらにコミュニケーションやプレゼンテーションのスキルを身につけることによって、不安を軽減させ、少しずつうまく話せるようになりました。 また、私は最近マインドフルネス(mindfulness)という方法によっても、不安を軽減することができるようになっています。マインドフルネスとは、“今、ここ”で起こっている現実に“気づき”を向け、その現実を“あるがまま”に知覚すること、そして“ものの考え方”や“感情”にはとらわれないこと、を意味しています。第三世代の認知行動療法として注目を浴びているアプローチです。 たとえば、私が作業をしていて、「うまくいくかなあ」という心のつぶやき(ものの考え方)が起こり、不安(感情)が頭をもたげてきたとします。そのとき、その考え方や感情に反応せず、もとの作業自体やそれに伴う身体感覚、呼吸などに注意や集中を戻していきます。すると、あら不思議(!)、どんなに強い考えや感情であっても、それ以上に発展することはなく、消えていくのです。 考え方を変えることによって不安を軽減するのも、考え方や不安から距離をとり、それが心の中の一過性の出来事でしかないことに気づくことによって不安を軽減するのも、同じ認知行動療法です。 悩んだり、困ったりしているクライエントの役に立つには、どうしたらよいだろうか。認知行動療法を、どう用いたらよいだろうか。もっとよいアプローチはないだろうか。そんなことを考えながら、研究に取り組んでいます。
元のページ ../index.html#41