研究アラカルト 41Untranslatable Words 初めに断っておきますが,私は文学少年でもなければ,留学経験があるわけでも,英語が堪能なわけでもありません。そんな私がジャケ買いしたのが,『翻訳できない世界のことば』という本です(私は,つくづくAmazonと相性が良いのだなぁと思います)。 この本に書かれている言葉をいくつか紹介していきます。drachenfutterというドイツ語は,「夫が悪いふるまいを妻に許してもらうために送るプレゼント」を意味する言葉で,直訳すると「龍のエサ」となるようです。また,タガログ語でkiligは「ロマンティックなことがあって,おなかの中に蝶が舞っているような気分」を意味します。なんとなく意味は分かりますが,「蝶がおなかを舞う感じ」というのは嬉しいのか,おなかの調子が悪いのかよく分かりませんね。他にも「バナナを食べるときの所要時間」を意味するpisang zapraというマレー語もあるようです。 世界にはこのような不思議な言葉があるようですが,Lomas(2016)は,喜び(joy)や幸福(happy)といった多言語・文化で共通して使用される言葉だけでなく,特定の言語・文化圏で使用される翻訳困難なポジティブな言葉に関する研究が,その文化圏の人々の精神的な健康や幸福感を高めることにつながると主張しています。 彼の論文では「ikigai(生き甲斐)」や「genki(元気)」,「ganbaru(頑張る)」といった言葉が翻訳困難な日本語の例として紹介されています。どの言葉も,日本の文化や社会をよく表しているように思えますし,普段よく耳にする言葉でもあります。また,彼の論文を読んで,最も印象に残ったのは「koi no yokan(恋の予感)」と,平然と書かれていることです。恋の予感を研究対象として扱っているのは,彼くらいではないでしょうか? 研究と臨床をつなぐ感情 翻訳困難語のように他言語・文化で用いられている言葉の意味を理解しようとする研究アラカルト 翻訳できないポジティブな言葉 菅原大地 臨床心理学・感情心理学・ポジティブ心理学 すが わら だい ち
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