つくばの心理学 2021 44 れた心身の感覚を言語公式として体系化し、これらの公式を一つ一つマスターしていくことによって他者による催眠法を用いずに自ら中性催眠状態(深くリラックスした状態)を導けるようにしたものともいえます。 メカニズムに関する基礎的な研究例 これらの公式に使われている言葉のイメージが実際に自律訓練法の練習を経ることによってどのように変化をするのかを検討した研究もあります。その研究結果では、自律訓練法の練習の前後で「重たい」という言葉のイメージが、「陰気な、暗い」イメージから「陽気な、明るい」イメージの方向へポジティブに変化していっていることが示されています。つまり、練習を経ることによって、よりポジティブなイメージを公式言語が獲得していったと考えられます。自律訓練法においては、これまで公式言語が自己暗示としても説明されてきていますが、この結果からは、公式言語そのものも新しい意味内容を獲得していっていることが示唆されています。 また、「重たい」と「温かい」という公式言語の自律訓練法によるイメージの変化について数量的な解析法を用いて検討した結果からは、練習を経ることによって両者のイメージの類似性が増すことが示されています。つまり、自律訓練法の練習を行うことによって、本来異なる二つの言葉のイメージがリラックスした状態の新しい共通のイメージを獲得していったことを示していると思われます。 自律訓練法への導入には、まず自律訓練法についての説明があり、弛緩しやすいように環境を整え、余分な緊張の入らない安定した姿勢をつくり、そして目を閉じるといった手続きがとられます。つまり、はじめに若干のリラックスや認知的な枠組みがあるのです。その上でこれらの身体的・心理的リラックス反応に受動的な注意集中をおこなうことによって、その心身のわずかな変化を意識化し、認知することを促します。そういった作業を行いながら、あわせて公式言語を暗誦することによって心身の弛緩反応とその言語公式とを結びつけていくといった、一種の学習の過程が自律訓練法の練習手続きの中に含まれていると考えられます。そして、この過程を繰り返すことによって、やがて随意的に言語公式から心理的・身体的リラックス反応が導き出されるようになると考えられます。 自律訓練法については、心理学的な基礎的な研究や治療法としての臨床的な研究などもいろいろと行なわれてきています。 【参考文献】 佐々木雄二・笠井仁編(2000)現代のエスプリ―自律訓練法―、至文堂.
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