研究アラカルト 45 なんで私たちはひとりひとり性格が違うのでしょう。怖がりの人、怒りっぽい人、新しい物好きな人、すぐに落ち込んでしまう人、楽観的な人。私たちは生まれ育ってきた環境がみんな違うので、様々な要因がこういった性格の違いに関わっています。ただ、その中に実は、遺伝的な要因も関わっていることが分かってきています。たとえば、一卵性双生児がどれだけ似ているかという研究から、性格などの行動特性に、遺伝的な影響が存在することが示されてきています。 動物にも性格の違いがあるんじゃないかと、犬や猫などのペットを飼った人ことがある人は感じたことがあるのではないでしょうか?私たちが実験動物として用いているマウス(ハツカネズミ)にも、怖がりの個体もいれば、新しいものをよく探索する個体、攻撃性が高い個体、ストレスに脆弱な個体など、様々な行動特性において個体差が観察されます。このような行動の個体差を生み出す生物学的な基盤を知りたい、というのが私の研究テーマです。 私は怖がりなので、いったいどうして同じ状況でも全然怖がらない人もいるのかということが知りたくて、大学に入ってから研究を始めました。マウスを突然、広くて明るい知らない場所に置くと、隅っこでうずくまって動かない(私みたいな)マウスや、すぐに自由に歩き回って探索するマウスがいます。どんな遺伝子が、そしてどんな脳の神経回路が、この行動の違いに関わっているのでしょう? マウスには近交系という遺伝的に均一な系統が複数存在します。同じ近交系の個体はみな、100%同じ遺伝型を持っています。これらのマウスを実験室の均一な環境で飼育すると、同じ近交系の個体とは似たような行動特性を示し、別の近交系の個体とは異なった特徴を示します。このことは、遺伝的な要因が行動の違いに影響を与えていることを示しています。新しい場所でうずくまってしまう「怖がりな」近交系マウスと、探索行動の多い近交系マウスを掛け合わせると、その孫世代の子供には、ものすごく怖がりの個体から、とてもよく探索す研究アラカルト ひとりひとり違うのはなぜ? —行動の個体差の生物学的基盤の探索— 高橋阿貴 行動神経科学・行動遺伝学 たか はし あ き
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