つくばの心理学 2021 48 であり、この能力に合わせた問題の出題という手立ては基本的に採ることができません。そこで、登場してくるのが、テスト得点の数理モデルやその解析法です。 テスト得点の数理モデルというのは、テストで測定している能力とテスト得点(個々の問題の正誤や正答数)との関係をある数学的な関数を用いて表したものになります。この数理モデルとしては今までに実に様々なものが提案されているのですが、その性質からも分るように、テスト得点の背後に適当な数理モデルを仮定することができれば、適当な解析法(推定法)を用いることにより、得られたテスト得点から受験者の能力を推定できるようになります。そして、このような性質(とコンピュータに関する技術等)を組み合わせれば、受験者が問題に解答する度にその能力を推定し、その推定値に基づいて受験者の能力に見合った問題を出題するテストを構築することが可能になります。このようなテストのことを、一般に「適応型テスト」と呼びます。 これからのテスト 適応型テストを用いる利点は、受験者の能力測定の精度向上だけではありません。たとえば、従来のテストでは基本的に全ての受験者が全ての問題に解答していましたが、適応型テストにおいては受験者の能力に見合った問題が出題されるため、今まで不適当な問題への解答に割かれていた時間が少なくなり、一般的にテストの実施時間が短くなる傾向にあります。これは、テストの受験者と実施者、双方の負担軽減につながる適応型テストの利点です。また、適応型テストでは受験者毎に解答する問題が異なるため、カンニングの防止にもつながります。このように、テスト運用上の様々な利点を有しているため、近年では、適応型テストに関する研究やその研究知見を応用した適応型テストの開発が盛んに行われるようになってきました。そして、これからも、適応型テストに関する研究や開発はますます盛んになっていくことと思われます。 私の研究 ここまで読んで下さった皆さんの中には、適応型テストに関して、「受験者の能力に合わせた出題はどのように行うのか?」とか「利用する数理モデルはどのように定めるのか?」といった疑問を抱いた方もいるかと思います。実は私、このような点について研究を行っています。もう少し具体的にいうと、「適応型テストにおいてはどのように出題項目を選択すればよいのか」、「このタイプの問題にはどういう数理モデルがあてはまるのか」といったことについて主にシミュレーションを利用して研究を行っています。もしそういったことに興味があれば、ぜひ一度、私の研究室にいらっしゃってみてください。
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