つくばの心理学 2021
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つくばの心理学 2021 50 しまい、勉強に対する意欲を失い、最終的には悪い成績しか修めることができませんでした。一方のBさんは、あまりできない生徒ばかりの高校の中で、自分よりも学業レベルの低い生徒たちとの比較のために、“自分は勉強ができるのだ!”といったコンピテンス(自信)が高まり、そのコンピテンス(自信)によって勉強に対する意欲が向上し、最終的にはAさんよりも高い成績を修めることになったのです。 こうした現象は“大きな池の小さな蛙になるよりも、小さな池の大きな蛙になるほうがよい”という意味で、心理学では『井の中の蛙効果』と呼ばれているのですが、『鶏口となるも、牛後となるなかれ』と同じ意味ですよね。 それでは、一体なぜこのような不思議な現象が生じるのでしょうか。それは、私たちがたった1人で社会から孤立して生きているわけではないからです。私たちは様々な社会的相互作用の中で、有形無形な影響を受け、そしていろいろな人と比較をしながら、自分自身を評価、判断しているのです。先ほど紹介しました例の場合では、Aさんにとっては周りの優れた集団が、Bさんにとっては自分よりもできない集団が、自己評価の判断基準(専門用語では“準拠枠”と言います)となったため、Aさんはコンピテンス(自信)を低めてしまい、逆にBさんのコンピテンス(自信)は高揚し、その結果、その後の成績に影響を及ぼしたということです。非常に興味深い現象ですね。こうした現象が強固に見られることが、心理学の様々な研究を通して確認されています。 ところで、この“井の中の蛙効果”は、一般的(統計的)に見られる現象であって、すべての人に、同様に生じるわけではありません。なぜならば、そこには個人差が見られるからです。例えば、Aさんのように、自分よりも優れた集団に所属することで、すっかり意気消沈し、勉強に対するやる気を失ってしまった結果、成績が低下する人もいれば、自分よりも優れた集団の中に身を置くことによって、自分を鼓舞し、一生懸命に努力することで、能力以上のパフォーマンスを修める人も少なからずいます。優れた集団という存在が、ある人にはネガティブに、別のある人にはポジティブに働くということです。 現在、私は、こうした周りの人(集団)が個人に与える影響やその個人差についての研究を行っています。さて、皆さんは、鶏口の方が良いですか?それとも牛後の方が良いですか?ちなみに、私の郷土であります宮崎県は、鶏、牛ともに全国有数の生産高を誇っております(最後は、東国原元知事ばりの宣伝でした!)。

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