研究アラカルト 51ストレスとは? “ストレス”という用語は今や日常語になりました。皆さんも“ストレス”という言葉をよく耳にしたり使ったりするのではないでしょうか。嫌な出来事(ストレッサー)に直面したとき、私たちの身体はストレス反応と呼ばれる特定の反応を示します。普段皆さんが使っている“ストレス”という言葉には、このストレッサーとストレス反応の両方の意味が含まれています。ストレス反応を最初に発見したセリエは、副腎の肥大、胸腺の萎縮、胃潰瘍をストレス反応としてあげ、これらの症状はストレッサーがどのようなものであっても共通してみられると考えました。現在では、自律神経系、内分泌系、免疫系、運動系、高次の神経系などすべてにストレス反応がみられることがわかっており、これらが心身症やうつ病など“ストレス”と関係が深い疾患につながると考えられています。 海馬の神経細胞の変性 ところでこのようなストレス反応は、私たちヒトだけでなく動物にも同様にみられます。電気ショックや身体的拘束といった物理的・身体的ストレッサーや、隔離飼育や条件性情動反応(以前に電気ショックを受けた場所に再び置かれる)のような心理的ストレッサーを動物が受けると、ストレス反応として、副腎という腎臓の側にある小さな臓器から副腎皮質ホルモンという物質が分泌されます。この物質は、生体の環境への行動的適応において重要な役割を担っていて、生体のホメオスタシス(生理的恒常性)を調節し、環境的要求に最適に対処できる体内環境を作り出すように作用します。また副腎皮質ホルモンは、体内に蓄えられている栄養素を血液中に出す働きを持っており、ストレス状態にある生体にとってこの物質は重要な役割を担っているといえるでしょう。 しかしその一方で、副腎皮質ホルモンは脳に悪影響を及ぼすことがわかってきました。たとえば副腎皮質ホルモンをラットに慢性的に投与すると、大脳辺縁系の海馬の研究アラカルト ストレスが脳を破壊する 山田一夫 行動神経科学・行動神経内分泌学 やま だ かず お
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