つくばの心理学 2021 8 ように感じられることもあるようです。先ほどの写真のような事態に遭遇したら、赤ちゃんを許せない気持ちになったり、自分をいじめていると被害的になったりするかもしれません。「ひどい」「やめて」と乱暴に止めたくなるかもしれません。親が抑うつであることは、不適切な養育の一要因なのです。 子どもの要求や働きかけにそくして、敏感に応えることが難しくなるような抑うつの状態が6カ月続くと、その後に親の抑うつが改善されて、適切な応答に変わっても、子どもの認知発達に影響を及ぼすことがあるという報告もされています。親子にとって、産後の抑うつにならないこと、また、抑うつになっても早期に回復することが望ましいでしょう。(とはいうものの抑うつの親の対応が、すべての子どもに影響を与えるわけではありません。) さらに、産後に母親だけでなく、父親も抑うつになることも、近年明らかになってきています(Goodman, 2004)。まず母親が抑うつになり、家事や子育てで父親の負担が増えて父親も抑うつになるとか、子どもが生まれる前からの夫婦関係の悪さが関係する、さらに、生まれた赤ちゃんが低出生体重児で、入院期間が長くなり、この分離の経験が影響するともいわれています。また、子どもが生まれる時期は働き盛りなので、どのような働き方をしているかも父親の抑うつに関係しているようです。いずれにせよ、家の中の大人2名が落ち込んだ気分で子育てをしていると、子どもへの影響がより深刻だろうと想像されます。 子育てをサポートするために ここに紹介した産後の抑うつが、私の研究のひとつのテーマです。親子の出会いの場である周産期センターで、調査や臨床実践をしています。縦断データから、妊娠中の抑うつが産後の抑うつにつながることもわかり、妊娠中から抑うつのスクリーニング、面接、地域の保健所との連携、他科の紹介などをしています。今後は、子どもの成長とともに、同じように抑うつの親に育てられても、その影響が大きい子とそうでない子の比較から、親の要因以外の要因を探っていきたいと考えています。そのためには、息の長い縦断研究が必要ですが、自分の年齢を考えると、子どもたちの成人まで追うことができるのだろうかと指を折っています。最初の縦断調査の協力者のお子さんは小学生になります。子どもの成長とともに変化する子育ての課題を追いながら、年を重ねていこうと思っています。
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