I. 問題の所在

 現在アメリカでは、人口の約1割に当たる3千万人が貧困レベル以下の生活をしていると言われる。人種別に見ると、白人の10.9%、黒人の24.7%、ヒスパニック系の21.9%、アジア系の9.8%が貧困レベル以下の生活をしていることが判る。また貧困レベル以下の生活者の割合が特に多い、黒人およびヒスパニック系の子供たちは白人の中流階層の子供と比べて、低い進学率や高い中途退学率を示している。高卒以上の割合は、白人91.1、黒人81.5、ヒスパニック系58.5%となっている。貧困層の子供たちの高い中途退学率は、貧困層の再生産による社会保障費の増大や高い犯罪率、また10代での高い妊娠率などに繋がるとして、アメリカにおいて、社会問題とされてきた。
 このような貧困の問題、また人種間での格差の縮小を目的として、教育政策においてもさまざまな取り組みがなされてきた。  連邦制を取る米国では、教育は州政府の権限とされ、連邦政府が教育に介入することは、原則として憲法で禁じられている。
 しかし国際的競争力の強化や教育を受ける権利の最終的な保障といった役割は、アメリカ連邦教育相"Department of Education"に求められており、補助金の配布によるプログラムを通しての教育政策が連邦レベルでも行われてきた。
 本研究では、連邦政府の権限が制限される中で、国家的な課題解決、また、権利保障の観点からの、貧困層や人種的マイノリティーなどのDisadvantaged Childrenのための教育制度の発展に注目したい。権限が制限された中で行われる連邦政府の教育政策に注目することで、貧困問題や人種間格差の問題の解決のための教育政策で優先されるべき点を明らかにすることができるのではないかと考える。

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