序章 目的と構成

No Child Left Behind法では、学力向上を目指した教育改革を成功させるために、現存する生徒間の学力差を是正することがその目的とされている。そこで重点的に取り扱われているのは、社会経済的に不利な状況に置かれている子どもたちである。

一方、アメリカでは英才教育(gifted and talented education)という教育制度が存在する。この英才教育制度とは、英才児(gifted and talented student)のための特別支援教育を指す。英才児とは、1988年にアメリカ議会で用いられた定義によると、「知的、創造的、芸術的領域、あるいは、リーダーシップの能力や特定の勉強分野などにおいて優れた潜在的能力を示」す児童・生徒のことであり、「このような素質を最高の次元にまで発達させるためには、一般に学校が準備していないサービスや活動を必要とする」と考えられている (1)。そこで、実際にこうした児童・生徒を識別し、特別な処置が施され、飛び級やマグネットスクールなどさまざまな英才教育制度を運用するための法的枠組みや財政基盤が整えられている。

この英才教育制度は、社会経済的に不利な子どもたちを重点的に取り扱うNo Child Left Behind法の方針とは、一見、相反するもののように見える。しかし、No Child Left Behind法のTitleX-D-6には、英才教育制度に関する規定がある。

では、はたして現在、アメリカにおける英才教育制度は、どのような状況になっているのだろうか。 本レポートの目的は、No Child Left Behind法制定によって、英才教育制度がどのような影響を受けたのかを明らかにし、 英才教育制度の現況について考察することである。 そこで、第一章ではまず、現在のNo Child Left Behind法で英才教育制度はどのように扱われているのか、 明らかにしたい。また、No Child Left Behind法が、実際に州の英才教育制度にどのように影響しているか 調べるために、第2章においてマサチューセッツ州の例を取り上げる。 そして、それらを踏まえて、第3章の考察では英才教育制度の現況について考察したい。


(1)恒吉僚子 1992 『人間形成の日米比較』 中公新書 51-52頁

第1章 No Child Left Behind法と英才教育制度

1.No Child Left Behind法における英才教育制度の規定

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