第1章:カンザス州におけるチャータースクール制度

0.個別の事例を取り上げる前に

 チャータースクールについて考える際に念頭に置くべきなのは、 チャータースクールに典型は存在しないということである。連邦と しての教育への直接的介入が合衆国憲法によって禁じられ、教育全 般にわたる裁量権が大きく州に分権されているアメリカにおいて、チ ャータースクールもその例外ではない。チャータースクールを制度と して位置づけるのは各州ごとのチャータースクール法であり、その 内実は州によって大きく異なる。1991年にチャータースクール法が 成立したミネソタ州は全米で第2位の設置上の自由度のあるチャー タースクール法を持っている一方で、ミシシッピやアイオワなどは 全米でも最も自由度のないチャータースクール法を持ち、公立学校 となんら変わりのない基準のなかでチャータースクールを運営して いる(1)

 とはいうものの、やはり個別の事例を挙げることが、チャータ ースクールというシステムをイメージする際に必要となってくる。 そこで、今回は、全米で下位から三番目の自由度を持つカンザス州 におけるチャータースクール法(2)から、その設置認可の手順・特質に ついて簡単に紹介したい。

1.カンザス州における設置の手順

 カンザス州におけるチャータースクールの設置の手順は二つの 段階に分けられる。第一段階は、学校区の教育委員会とチャーター スクール設置申請者が手続きを進めていく段階である。手順は以下 のとおりである。
  @申請者(どのような団体・個人でも可)が申請書類を学校区教育委員会へ提出する。
  A学校区教育委員会が公聴会を開く。
  B公聴会の結果を踏まえて、30日以内に認可するか否かを決定する。
  C決定後30日以内に、申請者と州教育委員会に決定の通知を行う。

第二段階は州とチャータースクール設置申請者が手続きを進めて いく段階である。学校区教育委員会からの認可がおりて初めてこの 段階に進むことができる。手順は以下のとおりである。
  @チャータースクールが連邦法や州の法律に合致するものかどうか検討する
   ・合致していた場合……………………設置が州教育委員会から認可される。
   ・合致していなかった場合……………申請者が州教育委員会を納得させる回答を行うまで認可されない。
  A検討した結果、認可可能なものと現在運営されているチャータースクールの 数が州内で合わせて30を超えている場合は、申請のあったもののなかからより優れ ているものを優先して認可する。

2.チャータースクールの継続・廃校の手順

 以上の手順に従ってチャータースクールは設置される。しかし、 設置されたところで、永久に公立学校として認められたわけでは ない。チャータースクールは通常何年かの期限付きでの契約であ って、効果のあげられる学校は運営の継続を続けられる一方で、 効果の上がらなかった学校に関しては長期にわたる運営は許され ない。これはカンザス州の場合も例外ではない。カンザス州にお いては、チャータースクール継続のために設置後3年間はいかな る申請も必要としない。その一方で、学校区教育委員会は年に一 度、個々のチャータースクールの状況やチャータースクールがど れだけの成果をあげたかを調査し、州教育委員会に報告する。そ して、調査の結果、以下の条件に当てはまった場合については廃 校の処置がとられる。
  @設備が十分でない場合。
  A教育目標を達成しなかった場合。
  B会計上のアカウンタビリティーを果たさなかった場合。
  C州教育委員会によって免除された事項以外で、連邦や州の法律に抵触した場合
 以上のいずれかに該当した場合、まず、チャータースクールの 代表者に廃校の根拠とされる問題についての申し開きの機会が与え られる。その後、州教育委員会が申し開きを受けて、廃校か否か を決定する。州教育委員会によって廃校と一度決定されれば、代 表者が上告することはできない。

3.カンザス州におけるチャータースクール設置認可の特質

 さて、カンザス州における設置・継続・廃校の手順を紹介した わけだが、ここからどのような特質を見ることができるのだろうか。 簡単にまとめたい。

 まず、一連の申請の流れが学校区と州の教育委員会を通して行われる ことに注目したい。州によっては、学校区や州の教育委員会が個別に チャータースクールを認可することもあるが、カンザス州においては 申請を受け付ける組織は一箇所だと考えてよい。最終的に認可を判断 するのは州の教育委員会であり、学校区の教育委員会はその代理とし て、一次段階での認可審査を行っているに過ぎない。それは申請の様 式や認可の基準について、州が細かく規定していることからも分かる(3)

 また、設置後も毎年一度は学校区教育委員会の調査が行われ、それ に従って、継続か廃校かの審査が3年毎に行なわれる。一度廃校と決 定されれば、二度と覆ることはない。非常に厳しいものである。また、 カンザス州では州内で運営可能なチャータースクールの上限を30校と している。

 これらの一連の基準・規制は何のためのものであろうか。カンザス 州が特に気を使っている点は、チャータースクールの均質性にあると 考えられる。一元的な申請手順と認可基準、非常に短いスパンでの評 価と審査、そして、30校という目の行き届く数の上限設定。多様な学 校創造の可能性を持つチャータースクールだからこそ、逆に失敗も起 こりうる。しかし、子供の教育に関して失敗はあってはならない。あ ってはならないからこそ、カンザス州ではこのような規制によって、 チャータースクールの質を厳しく管理しているのだと考えられる。


(1)自由度のランキングは"Charter School Laws Across the States:Ranking and Scorecard 8th Edition" The Center for Education Reform 2004による
(2)Kansas State Act 72-1903〜72-1910(通称Kansas Charter School Law): 州教育委員会ホームページ http://www.ksde.org/charter/law.htm より(アクセス日2003年6月18日)
(3)申請に当たっては、州の定めた申請用紙があり、 学校の計画に対する細かい質問項目が定められている。(Pursuant to K.S.A.72-1903 et seq.)
また、それに対する学校区の評価の基準も州によって細かく定められている。(Kansas Charter School Petition Scoring Rubric 2000-2001)
申請用紙は http://www.ksde.org/charter/petition.htm(アクセス日2003年6月18日)
評価基準は http://www.ksde.org/charter/petitionrubric.htm(アクセス日2003年6月18日)
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