序章:本レポートの目的と構成

 チャータースクールとは1991年にアメリカにおいて成立した制度である。 既存の公立学校によっては満たされえない新たなタイプの教育ニーズを持つ人 々が、自ら公立の学校をつくり、ニーズに合致した教育を行なうことを可能と した制度である。教育の質を向上させるために、1980年代までにアメリカでは 様々な教育施策が行われてきた。一連の教育施策の中心にあったのは学校選択 という概念である。学校選択権を子供や保護者に与えることにより、教育に市 場原理を導入し、学校間・教師間の競争を生み、それによって教育全体の質の 向上を目指した。その一連の改革の一つがチャータースクール制度である。

 チャータースクール制度は1991年にミネソタ州においてチャータースクー ル法が制定されたことにより始まる。翌年、カリフォルニア州においてもチャ ータースクール法が制定される。その後、チャータースクール法は徐々に他の 州でも制定されるようになり、現在ではチャータースクール法を定めた州が40 (そのうちチャータースクールが実際に運営されていない州は3州)もあり、 2003年現在運営されているチャータースクールは全米で2996校にのぼる(1)

 この制度が開始からわずか10年程度の間に急速に発展していったのには 一つの大きな理由がある。それは連邦政府が莫大な支援を行っているというこ とである。チャータースクールは現在進行しているアメリカの教育改革におけ る一つの大きな柱なのである。

 チャータースクール制度の重要性というのはアメリカのみにとどまらない。 近年の日本においても学校選択制が東京都の品川区などの地域で先駆的に導入さ れる事例が見られる。チャータースクール制度はこれら日本国内における学校選 択制に少なからず影響を与えている。アメリカのチャータースクールという制度 と日本における学校選択制を単純に比較することはできない。しかし、制度的・ 文化的な背景が大きく異なることを差し引いてもなお、学校選択制を非常に強い 形で導入しているアメリカの事例は参考するに値する。

 そこで、本レポートでは、第1章でカンザス州のチャータースクール制度 を取り上げ、チャータースクール制度の説明する。また、補足として、全米にお けるチャータースクールの形態や規模などを具体的なデータをもとに紹介する。 第1章でチャータースクールのイメージ像を描いた上で、第2章ではチャーター スクールがどのような流れで生まれてきた制度なのか、そして、制度が開始され た当初は一体どのような議論がなされたのか、最初にチャータースクール法が成 立したミネソタ州と次に成立した、カリフォルニア州を例に論じる。そして、第 3章では視野を広げ、連邦政府がチャータースクールの発展にどのように寄与し てきたか、特にパブリックチャータースクールプログラム(The Charter School Program:CSP)という連邦政府の支援の柱となっているプログラムを中心に考察す る。終章では、全体を踏まえ、アメリカにおけるチャータースクール制度の今後 について考察する。


(1)"Charter School Laws Across the States:Ranking and Scorecard 8th Edition" The Center for Education Reform 2004による
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