米国における学校中退問題への対策



6.考察

  学校中退問題を解決するには、「中退ハイリスク層」の生徒の中退を予防するための取り組みと、 中退者への社会的支援が同時に求められる。 教育分野、労働分野のそれぞれにおいて、現状の問題に対する様々な施策が試みられているが、 連邦教育統計センターが示す中退率が徐々に低下していることは、 これらの取り組みが実を結び始めたといってよいかもしれない。

  本稿でとり上げたうちの二つの取り組みに注目したい。
  一つは「全米外部卒業証書プログラム」である。 中等教育で習得すべき能力を有することを保証するものとしての高校の卒業証書を、 学力については最低限の基準に抑え、 一人前の社会人としての生活経験や職務経験を保証するものとして捉える点が画期的である。
  もう一つは「Life Skills Center」である。 この取り組みも、学校教育に馴染めずにその機会を失った生徒たちに対して、 生活知識、生きるためのスキルを習得させることで高校の卒業証書を与えている。 そのウェブページのトップには、”A SECOND CHANCE BEGINS WITH A HIGH SCHOOL DIPLOMA.” (「高校の卒業証書でセカンドチャンスが始まる。」)というメッセージがある。
  この二つの取り組みは、高校の卒業証書をその後の飛躍のための手段として捉えている点が共通している。 従来の学術的な知識の習得や応用に偏らざるをえなかった高校教育に、 新たな価値基準を導入し、教育制度全体に意識的な改革を迫っているともいえるかもしれない。 現状では、教育システムの外部に追い出された中退者および中退ハイリスク層に対して、 セカンドチャンスを提供することで救済をするかたちになっている。 だが、いずれはこのような取り組みを中心に、 教育システムの中に「ライフスキル」のような評価基準を導入する流れが起こる可能性がある。 しかしここで、米国の教育史が70年代後半に経験した学力低下を思い起こさなければならない。 「学力」に偏重しない教育と学力の維持は果たして併存可能なのか、検証の必要がある。



← BACK | HOME | REFERENCE →