おわりに:考察と今後の課題

 NCLB法は2002 school yearから実施された。そのため、SESは2002・2003年と連続でAYPを達成 できなかった学校の生徒に対し、2004年度から提供されている。我々がSESの効果を見ることがで きるのは、もう少し先になりそうである。

 今回のレポートでは、SESの概要とその教育内容に限定された報告となってしまったが、SESの 問題点として営利団体や宗教団体がプロバイダとなれることが挙げられている。これは、教育 バウチャー導入時にも問題になったことだ。今後、日本でも低学力生徒、社会的に不利な立場に置 かれている生徒の学力支援策を講ずるに際して、アメリカで起こった論争を研究することは 学力支援策導入の際の問題を事前に明らかにすることとなり、欠かせないだろう。これは 今後の研究課題としておきたい。

 ともかく、アメリカの学校改善プログラムと低学力生徒への支援策、とくにSESを見てきた ことで、今後の日本の教育制度のあり方を考えさせられることとなった。学校改善活動や矯正 活動はともかく、再構成という方策は日本の風土にはなじまないかもしれない。しかし、学校が どの生徒にも学力を保障することは、親のニーズであり、社会のニーズであり、そして教育を 受ける生徒自身のニーズであると思う。そのための学校改善施策は不可欠である。また、低学力 生徒への支援としてSESという方法は、提供者となりうる営利団体は十分だろうし、NPO・ボ ランティアなどの非営利団体も充実するだろう。さらに、保護者にとっては受け入れやすい、も しくは願ってもない方策となりうるのではないだろうか。「学力低下」の合言葉の基に学校が翻 弄させられなくてもいいように、学校の教育内容・方法の充実と、低学力生徒への支援の充実が図 られることを願いたい。



【参考】

NCLB法 TITLEIsec1116

連邦教育省HP http://www.ed.gov/index.jhtml 2005.3.31現在

supplemental educational survice quority center HP http://www.tutorsforkids.org/  2005.3.31現在

A+ Educational Centers HP http://www.aplus4u.com/nclb.htm 2005.3.31現在

Cajon Valley Union School District, CA HP http://www.cajonvalley.net/ 2005.3.31現在

Kumon Math and Reading Centers HP http://www.kumon.com/ 2005.3.31現在

大前敦巳「キャッチアップ文化資本による再生産戦略―日本型学歴社会における「文化的再生産」論の 展開可能性」『教育社会学研究(70)』pp165-184,日本教育社会学会2002

五島一美「No Child Left Behindと教育の再生産」『早稲田教育評論』,pp85-96,早稲田大学 教育総合研究所2004

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