第1章 はじめに


 1954年のブラウン判決後、教育における人種差別撤廃が図られてきたが、人種間の格差温存による「落ちこぼし」は、アメリカの教育において現在も大きな問題となっている。
例えば、全児童生徒数の約70%をマイノリティが占めるカリフォルニア州(*1)においては、ロサンゼルス群の学区のマイノリティの割合(*2)とドロップアウトの割合(*3)との関係性を調べてみると、卒業率が群(77%)もしくは州(83.2%)を下回る13の学区のうち、8つの学区でマイノリティの割合が90%を超えることが分かる。
しかし、マイノリティの割合が90%を超える学区の中から卒業率が90%を超える学区を抽出してみると、14の学区が見つかった。

 これまでには、1983年の「危機に立つ国家:教育改革への至上命令」、1991年の「2000年アメリカ:教育戦略」、1994年の「2000年の目標:アメリカ教育法」、そして2002年のNo Child Left Behind Act (NCLB法)と全米的な教育改革が進められてきた。
 これは、合衆国憲法上は連邦政府に教育行政上の命令権はないにせよ、実質的には連邦が教育への関与を行うような状況になると同時に、厳しい説明責任を求めつつも地方および学校の裁量権が拡大してきていると言える。
 地方および学校の裁量権が拡大することは、それぞれの地方や学校の取り組みによって、人種間格差に与える影響が異なることを意味し、独自の取り組みが格差解消をもたらすか否かに関わってくると考えられる。
 また、NCLB法の施行のよるスタンダードの導入と標準テストの実施は、地域が地域の実情に合わせて自主的に築いてきた教育の質を低下させ、人種的マイノリティや低所得世帯に所属する児童生徒にも悪影響を及ぼす可能性があるとの指摘もある。
 このような動きの中、学校の再人種分離化傾向に陥らないためにも、地方および学校の取り組みが重要になってくる。

 そこで本研究では、Comprehensive School Reform Program (CSR Program)とAcademic Performance Index (API)をもとに、カリフォルニア州ロサンゼルス群Los Angeles Unified School Districtにおける学校ごとの人種間格差解消の現状について調べ、学校における人種間格差解消の可能性について考察する。


(*1)National Center For Education Statistics, Public Elementary and Secondary School Student Enrollment, High School Completions, and Staff From the Common Core of Data: School Year 2005-06 (Table 2. Public school student membership, by race/ethnicity and state or or jurisdiction: School year 2005-06)
http://nces.ed.gov/pubs2007/pesenroll06/tables/table_2.asp
(*2)California Department of Education, DataQuest, (County Enrollment by Ethnicity (with district data)2006-07, Los Angeles)
http://dq.cde.ca.gov/dataquest/CoEnr.asp?cChoice=CoEnrEth2&cYear=2006-07&TheCounty=19%2CLOS%5EANGELES&cLevel=County&cTopic=Enrollment&myTimeFrame=S&submit1=Submit(最終確認:2008/3/4/10:00)
(*3)California Department of Education, DataQuest,(Graduation Rates Based on NCES Definition by County(with district data)2005-06, Los Angeles)
http://dq.cde.ca.gov/dataquest/CompletionRate/CompRate2.asp?cChoice=CoGrdRate2&cYear=2005-06&TheCounty=19,LOS^ANGELES&level=County(最終確認:2008/3/4/10:00)

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第2章