第2章:No Child Left Behind Act(NCLB法)と人種間格差


 五島(2004)は、No Child Left Behind Act(NCLB法)によって教育の再生産がもたらされる可能性について指摘している。

 連邦は1983年の「危機に立つ国家」、1994年の「2000年の目標」に対する各州の不支持を受け、各州の教育行政に、より強い教育力を行使することで、地方分権をより集権的なシステムに移行する意図があるという。
【NCLB法の4本の柱】
 (1)結果に対する説明責任
 (2)学的調査に基づく効果のあるところへの予算の重点配分
 (3)親の選択権の拡大
 (4)地方の裁量権の拡大
【NCLB法における最大の課題】
 「教育における不平等を被り、他の児童生徒よりも低い学習達成度を示しているマイノリティと貧困層の児童生徒の学力をいかにして他の児童生徒と同じレベルまで引き上げるか」
→人種間の格差解消を目指したもの

 以上のことを果たすために、スタンダード(学習の熟達度)の設定は各州に任せるが、各学校にAYP(Adequate Yearly Progress)の達成を要求している。
要求に従わない州に対しては財政援助の停止がおこなわれたり、AYP未達成校には強硬措置が取られることとなる。
このため、連邦の補助金でTitleTの助成を受けている学校にとっては深刻な問題に陥る可能性がある。
◇人種統合がより進んだ学校と低所得者の多い地域の学校ほど、AYPが低下
◇州の予算削減と連邦からの助成の不足により、学校や児童生徒に対する支援が減少
◇AYP達成の圧力の増加
◇スタンダード達成に失敗した児童生徒の留年の結果によるドロップアウト
◇テストの評価でのみの格差縮小(見せかけの平等)

 五島の指摘から見出せることは、NCLB法は、マイノリティや貧困層における教育の不平等を是正するために提言されたものであるが、一歩間違えると教育の差異化を強調することになりかねないということである。
つまり、TitleTの助成を受けているような学校は、AYPを達成できるように最初から設定を低くしなければならなくなり、達成度もそれに伴って低くなる。
また、もし達成できなければ予算や助成の不足から児童生徒への支援が行き届かなくなり、、結果として学力格差を拡大したり、ドロップアウトにつながったりしてしまう可能性があるということである。
このような事態に陥らないためにも、地方や学校による格差解消に向けた積極的な取り組みが重要になってくると考えられ、それぞれの取り組み方の違いによって、人種や貧困における格差解消に差が出てくると言える。

第1章

第3章