第5章:考察と今後の課題


 第4章では、カリフォルニア州ロサンゼルス群Los Angeles Unifiedにおいて、2006-07年にComprehensive School Reform Program (CSR Program)採用されたDana(Richard Henry)Middle schoolとMarina del Ray Middle schoolを基準にして、Academimic Performance Index(API)をもとにそれぞれのSimilar Schoolsを見てきた。
 では、学校によって人種間格差解消の現状がどのようになっているのかという視点に立ったとき、ここから何が見えてくるだろうか。


 取り上げたSimilar Schoolsは、同じ学区内にある似たような人口統計の特性を持つ学校である。
 階級、民族性、社会経済状態、母語、特別支援の必要性などといった生徒の特性と、教師の常勤・非常勤の割合、学級規模、能力別編成コースの有無といった運営の特性が比較的類似しているということを意味している。
 なおかつ今回は、2006-07年にCSR Programに採用された2校を基準にSimilar Schoolsを取り出したので、人種的マイノリティや貧困層の生徒の割合が高いSimilar Schoolsだと考えられる。
 この中でAPIを比較することは、それぞれの学校ごとの学力面での格差解消の現状について知る1つの手がかりになるであろう。
 Dana (Richard Henry) Middle schoolのSimilar Schoolsでは、2006年の州全体でのランクは2〜9までと幅があり、2007年に達成したAPIの最小値と最大値の差は174である。
 また、Marina del Ray Middle schoolのSimilar Schoolsでも、2006年の州全体でのランクは1〜8までと幅があり、2007年に達成したAPIの最小値と最大値の差は292である。
 もちろんこれは、APIという限られた基準の中での話であり、これで一概に学校ごとに大きな差があるとは言えないかもしれない。
 しかし、差があるということも事実であり、Similar Schoolsという類似した特性の学校同士においても、それぞれの取り組みによって違いが生じているというのも確かなことであろう。
 2007年に達成したAPIの最大値は、どちらのSimilar Schoolsにおいてもチャータースクールであるということもあり、学校規模の違いや教育方針、運営体系、カリキュラムの違いなど、その特殊性によるものも大きい。
 だが、その最大値に近いものを達成している一般の学校もあり、学校ごとの取り組みが人種間格差解消をもたらす可能性を秘めていると言える。

 今後課題としては大きなもので2点挙げられる。
 1つは、今回の研究が学力面の数値という限られた範囲内での人種間格差というものに留まってしまっているということである。
 本当の意味で人種間格差解消のあり方を考えていくには、学力面だけでなく学校生活そのものに深く踏み込んでいくべきであり、学校・家庭・地域という幅広い視点から人種間格差の問題を見つめていく必要がある、
 もう1つは、今回の研究が学校ごとによって学力面での人種間格差にどのような違いが生じているのかということの現状確認に留まってしまい、学校の裁量権が拡大している今日において、どのような独自の取り組みが人種間格差解消の手立てになっているのかを探れなかったということである。
 次回はぜひ、今回取り上げたSimilar Schoolsの中から何校かピックアップして、それぞれのどのような取り組みがどのような人種間格差解消の手立てとして働いているのかを検討してみたい。


<参考文献>
●五島一美「No Child Left Behind と教育の再生産─マイノリティと貧困層の児童生徒への影─」『早稲田大学教育評論』Vol.18,2004
●U.S. Department of Education, COMPREHENSIVE SCHOOL REFORM PROGRAM, About CSR
http://www.ed.gov/programs/compreform/2pager.html(最終確認:2008/03/04/11:30)
●California Department of Education, Comprehensive School Reform(CSR)funded Schools, 2006-07 Cohorts 4 and 5 Comprehensive School Reform
http://www.cde.ca.gov/fg/fo/r15/documents/csr06result.xls(最終確認:2008/03/04/11:30)
●Los Angeles Unified School District, Schools, Find A School
http://notebook.lausd.net/schoolsearch/selector.jsp(最終確認:2008/03/04/11:30)
●California Department of Education,Testing&Accountability, Accountability Progress Reporting (APR)
http://www.cde.ca.gov/ta/ac/ar/(最終確認:2008/03/05/12:00)

第4章

目次