第1章 問題の所在


 現在、日本の大学の学費の高さが問題となっている。特に私立大学の高学費については、参議院予算委員会において2005年3月当時の 文部科学大臣・財務大臣も認めていた(『しんぶん赤旗』2005年3月9日付)。この委員会において、日本共産党の小林議員が私立大学の 初年度納付金平均額(昼間部)は、1985年度で91万3千円だったのが、2004年度には130万2千円に達していると述べた。 さらに同議員は子ども2人が私立大学に通った場合、勤労者平均年収に占める学費・下宿代の割合が83.1%に達していることを紹介した。 それを受けて、中山成彬文部科学相(当時)は「私の妹の息子も私大に入ったが、母親は『ふうふう』いっているのが実情だ」と答弁した。 また谷垣禎一財務相(当時)も「保護者は、相当仕送りをしないと、とてもやっていけないことは間違いない」と、苦しい実態を認めた。

  また、国立大学の授業料も年々増額している。現在の国立大学の授業料平均額は年額53万8千円である。 30年前の国立大学の授業料は年額3万6千円で私立大の5分の1であった(『朝日新聞』2005年4月2日付)。 その後は私立の学費の格差を是正するという理由でほぼ1年おきに値上げされている。 そして現在の国立大学の初年度納付金は80万円を超えており、私立大学の文系のそれと大差がなくなってきている。

このような学費の高騰への対策の一つに奨学金が挙げられる。学費や生活費に見合った奨学金が必要としている学生に支給されれば、 教育の機会均等を守ることが出来る。しかし、今の日本の大半の奨学金を支給している独立行政法人日本学生支援機構は学費と生活費を カバーできない金額しか支給していない。また、大学学部(昼間部)の学生全体における奨学金希望者は50.3%いるが、 受給者の割合は全体の31.2%に過ぎない。つまり希望したが不採用だった者が少なからず存在するのが現状である。 (平成14年度学生生活調査結果)

 そこで日本の奨学金制度の今後を考えていくために、今回アメリカの奨学金制度を取り上げる。その理由は以下の通りである。
@第二次大戦後の改革によって現在の姿となった日本の大学のモデルがアメリカの大学であったこと。
A日本とアメリカが共に高等教育就学年齢にある者の40%以上が大学進学を希望している社会であること。
B日本は約80%、アメリカは約20%と、先進国の中で大きな私学セクターを持っていること。
Cそして奨学金に対する国の支出に大きな違いがあり、政策的な差を比較検討できることが挙げられる。

 さらに、本論ではアメリカの奨学金制度史を取り上げ、カーネギー報告に注目する。 それは、どのように現在の充実したアメリカの奨学金制度がつくられたのか、その制度の変遷の中で現在の制度を形作る きっかけとなったカーネギー報告はどういった内容だったのかを考察することで、 充実した奨学金制度が形作られた理由を明らかにしたい。 その過程を経ることで日本の奨学金制度を改善する際の重要な視点を提示したいと考えている。

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