1.はじめに

本研究の発端は、日本では教員への道が大変に狭き門となっているのに対してアメリカでは教員不足に長年悩まされているという 教員供給に関する現状の違いに対しての疑問である。
日本においては現在、教員志望者数がその必要人数に対して圧倒的に上回るという供給>需要の状況があり、教員への道は狭き門となっている。
しかし、アメリカでは教員不足が慢性的な問題とされており、 教員数を確保するために行われた臨時免許状の発行などの対策によってその問題は教員の質の問題として性質を変えながら深刻化した。
アメリカの教育目標である学力向上のためには質の高い教員の確保は重要な課題であり、行政側もそのために養成課程の改善を行うなどさまざまな対策を講じている。 これに加え、教員不足の根底あると考えられる教員の職業的安定性の低さ、賃金をはじめとする労働条件の不十分さ等が改善され、 専門職としての教職の魅力の向上が果たされれば、教員の確保につながるのではないだろうか。(注)
この点において教員組合の果たす役割は大きいのではないかと考えられる。 つまり、教員組合が団体交渉等を通して労働条件改善を図ることが結果的に教員供給・教員確保に貢献するといえるのではないかということである。
本研究では以上のような考えから、教員組合が教員給与決定にいかに関与し、最終的に教員確保にいかに貢献しうるかを検証することを目的とする。
研究の手順としては、アメリカにおける教員給与制度およびその現状を把握した上で、 教員組合による団体交渉が教員給与決定にいかなる影響を与えるのかということについて先行研究で確認し、 さらに教員組合の団体交渉・争議権について各州法等の規定を類型化するとともに、それらと実際の教員平均給与のデータを対応させ、団体交渉・ストライキ権と教員給与の間の相関関係について考察を試みる。

(注)中谷(1995)が先行研究をまとめた論文が参考になる。Zabalzaによる教員の職業選択と報償との関連性を示す研究*1によると、教員給与を他の職種の平均給与で割った相対給与と、教職に就く大学卒業者比率には明らかな相関が見られる。 相関給与が10%増加すると女性の教員入職数は21%増加し、男性は36%増加する。
また、Zarkinの調査*2でも、学校教員市場において経済的な要素が重要な役割を果たしていることが示された。調査によると、訓練された教員給与の対賃金弾力性は中等学校で.72、初等学校で.81と見積もられる。これはつまり、中等学校においては20%の賃金増加が14.4%の教員供給を誘引すると推測されるということである。
さらに、EbertsとStoneはオレゴン州の教員について学区間での教員の流出における賃金格差の効果を調査した*3。この調査によって、他の要因を考慮しても、高賃金は教員が移動する可能性を減少させることが発見された。この結果は先に上げたZabalzaの研究結果とも共通する。彼は地域間で教員の移動に影響すると考えられるさまざまな要因を研究し、高賃金と地域での昇進のチャンスの多さの両方が、地域外へ教員の流出を減少させ、地域外からの教員の移入を増加させることを導いた。
*1 Zabalza,A(1978)Internal Labour Mobility in the Teaching Profession, Economic Journal,88 ,314-330
*2 Zarkin,Gary A.(1985)The Importance of Economic Incentives in the Recruitment of Teachers. Final Report, ED256 050
*3 Eberts,R.W.&Stone,J.A.(1984)Unions and Public Schools, Lexington Books.

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