2.アメリカの教員給与制度とその現状

(1)給料制度

アメリカにおける教育に係る権限と責任はすべて州および州以下の地方自治体(主に学区)に帰属している。
したがって教員給与制度も高度に分権的なものであり、給与制度の骨格は各州法により規定されており、連邦として統一されていない。
さらに各州の内部での教育実施主体である学区(school district)が最終的な決定を行うため、極論を言えばアメリカにおいては約15,000存在する学区の数だけ教員給与制度が存在するとも言える。
したがって州の内部でも学区によって給与水準等が大きく異なることもあるのである。
とはいえ、教員の給与水準については同学歴の他職種と比較して水準が低いという点で概ね共通した認識が存在する。


給料表等の決定方法
アメリカにおける教員の給料は学歴(取得学位および追加取得単位数)と勤続年数によって区分された給料表に基づいて決定されるのが通常である(注)が、
その給料表の策定については
@学校区または学区教育委員会が単独で策定する場合と、
A学校区と教員組合との労使交渉の結果を受けて学区を抱える現政府あるいは学区が策定する場合がある。

(注)校長のような管理職については教員のような給料表が存在しない場合が多い。
また、近年では給料表と複数の給与体系の併用や、教員の知識・技能的基盤に基づく給与体系との併用を目指す動きが広がりつつある。


(2)教員給料の現状

全米規模のアメリカ教員連盟(American Federation of Teachers)の調査によると、2005年の全州年間教員平均給与額は47,602ドル(年俸。以下全て年俸)であることがわかった。
最も高額なのはコネティカット州の57,760ドル、最低額はSouth Dakotaの34,039ドルであった。 アメリカの教育雑誌にGallup社が提供した世論調査によると教員の給料について「低すぎる」と回答する人の割合は1969年以降(多少の増減はあるものの)全体的に見て増加傾向にあり、 90年には50%、2003年には59%と6割近い人が教員の給料を低すぎると評価している。
また同じ調査の別項目では、教職の魅力を高めるために給与を「もっと引き上げるべき」という選択肢を選んだ人が65%いた。

教員給与については1982年に他の職種に比べて低いことが指摘され、80年代後半から90年代前半にかけて大幅な改善が見られた。
しかし、それ以降大きな変化は見られない。2005年の給与は前年度比2.2%の上昇に過ぎず、消費者物価指数の上昇率3.4%に比べて1.2%も下回っている。
全米で消費者物価指数を下回る上昇率であった州は37州にのぼり、平均的給与を受けている教員の購買力は2003年から2005年までの間に約800ドル低下した。
また、新任教員平均給与31,753ドルは前年度比3.1%上昇であるが、他職種と比較してまだ低い水準となっており、問題を解決するほどのレベルには達していない。 特に理数系の学部を卒業して他職種についた場合と教員になった場合の格差は大きく、この分野における教員不足を助長しているといえるだろう。




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