序章:本レポートの目的と構成

 学校教育の質的改善はその直接的な教育実践者である教員の役割が重要であることは今日明らかである。そのための教員の能力開発・向上が求められているが、それに対して適切な評価を加えることも重要な要素のひとつであるといえる。教員評価は教員の力量を適切に評価し、その力量を維持、向上していく役割を担っていなければならない。教員評価が適切に行われる場合、教員自身の勤務意欲や能力の開発向上に大きく寄与するばかりでなく教員に求められる役割、またそれに対する教員の責任が問い直され、学校教育の改善に有効な手段になり得ることが考えられる。しかし反対に、教員の評価制度そのものが問題を抱えていたり、また適切な運用ができていなければ有効な方途にはなり得ないであろう。

 アメリカでは2001年に制定されたNo Child Left Behind法(以下NCLB法)のもとで、2005−2006年(2005年度)までにすべての教師が“Highly Qualified Teacher” になることを求めている。すべての教師が“Highly Qualified Teacher”(直訳すれば「質の高い教師」)になれば、すべての生徒にとって一定の教育効果を上げることができるといった公教育として役割を果たすことができ、なにより、教育の質全体の向上につながることが可能であろう。しかし、それではいったい何を基準に、どのような方法によって“Highly Qualified Teacher”と認められるのか。“Highly Qualified Teacher”の評価基準・方法が適切でない場合、有効に教育の質を向上させることはできない。つまり、 “Highly Qualified Teacher”としての評価基準・方法は重要であり、その施策を調査することは教員評価の問題を捉える上で意義が有るといえよう。

 したがって、本レポートでは“Highly Qualified Teacher”の施策を調べ、教員評価の問題を捉えることにより、日本の教育に対しての寄与を考察することを目的とする。

そこで、本レポートでは、以下のような課題設定をする。

  1. NCLB法において“Highly Qualified Teacher”がどのように規定されているかを明らかにする。
  2. “Highly Qualified Teacher”の規定の中でも特に州の独自性に任されているHigh, Objective, Uniform, State, Standard of Evaluation (質の高い、客観的でかつ、むらのない州の評価基準。以下HOUSSEとする)に注目し、その法的規定を明らかにする。
  3. NCLB法による“Highly Qualified Teacher”の規定のもと特定の州では、どのような運営をしているかを明らかにする。

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