第3章:連邦政府の政策としてのチャータースクール

0.連邦の支援の重要性

 これまで、各州における事例をもとにチャータースクールに ついての説明をしてきた。しかし、ここで視点を変えてみる必要 がある。チャータースクールという制度が始まって10年程の間に これほどまでに発展したのは、各州の行政やそれを後押しする保 護者や子供たちの世論だけによるものではない。チャータースク ールを非常に強く支援してきたものとして、連邦政府が挙げられ る。連邦政府の役割を抜きにしてチャータースクールを考えるこ とは不可能である。

 チャータースクールは現在、アメリカの教育改革の中で連邦 政府の政策の重要な柱として位置づけられている。しかし、チャ ータースクール制度が始まった1991年当初、連邦政府はチャータ ースクールに対して現在のような大きな期待を持っていたわけで はなかった。連邦政府がチャータースクールに関心を持ったのは、 1993年に当時の大統領であったクリントンが、様々な目的でチャ ータースクールへ資金の援助を行うためのプログラムである、パ ブリックチャータースクールプログラム(The Public Charter S chools Program:PCSP)を議会へ提案したことに始まる。しかし、 1993年はこのプログラムの実現には至らなかった。結局、このプ ログラムは1994年の初等中等教育法(ESEA)の改正によって制定 され、1995年から補助金の支給が始まった。初年度は600万ドルか ら始まり、2002年現在では2億ドルを超える支給額を誇る(1)。単純 に補助金の額から考えても、連邦政府がチャータースクール支援 に力を入れていることが分かる。そこで、最後に、チャータース クールプログラムの内容とその評価について取り上げたい。

1.The Public Charter Schools Programの概要

 さて、The Public Charter Schools Program(以下、PCSPと する)に関して、目的・補助金の種類・補助金がどのように支給 されるのかということについてみていきたい。

 @目的
 PCSPはチャータースクールの計画や初期の運営にかかる費用 の援助を目的としている。州のチャータースクール法により州や 学校区の資金の援助の方法は異なるが、学校を設立する団体は、 立ち上げる際に自らの財産を投げ出したり、負債を抱えることを 余儀なくされることもしばしば起こる。それらを補う目的がこの PCSPにはある。
 また、援助を通して、全米の子供が利用できる優れたプログ ラムを提供する学校をつくることも目的として挙げられる。

 A種類
 補助金の種類には設立の際の計画(Plannning)と実行(Inplementation)、 優れたプログラムの共有(Dissemination)の三つの種類の助成金からなる。

 B補助金の支給先
 a.州の教育委員会(State Education Agencies:SEAs)への支給
 多くの場合、州の教育委員会が連邦から補助金を受給し、そ れを各学校へと分配している。この場合、州教育委員会は補助 金のうち、5%を上限として手数料を得ることができる。
 b.各チャータースクールへの支給
 州としてPCSPへの参加をしていない場合や州の教育委員会 によって学校からの申請が却下された場合は学校毎に直接、 連邦から補助金を申請・受給することができる。実際にこの ような形式をとっているのはわずかであり、アリゾナ州など がそれにあたる。

2.The Charter School Programの評価

 次に、PCSPが実際にどのような効果を与えているのか、 PCSPに対する評価レポートの具体的なデータから現状を見たい(2)

 @PCSPの補助金の利用状況は

 1998年から1999年にかけては、48%のチャータースクールが PCSPの補助金を受け取っていると答え、受け取っていない学校の 四分の一が補助金の申請を行ったことがあると回答した。
2000年から2001年では、61%の学校が州や学校区を通じて、も しくは連邦から直接PCSPの補助金を受け取っていると答えている。 また、30%の学校が過去に受け取ったことがないと回答し、10% もの学校が補助金を受け取ったことがあるかすら分からないと答 えている。
 評価レポートでは、受け取っているかどうか分からないという学 校が多いことの原因を3つに分けて分析している。
 第一に、人事異動のために、現地における学校の担当者とのイン タビュー調査を行っても、過去の正確な情報を得ることができな かった可能性がある。
 第二に、学校がPCSPの補助金を州から受け取る際に、州の補助金 を受け取っていると勘違いしているという可能性がある。
 第三に、学校の財政の管理をしているのが、インタビュー調査を した人ではなかったり、他の団体だったりする可能性がある。
どのような理由であったのにしろ、PCSPに対する認知が完全なも のではなく、一部のチャータースクールにとっては関係のないも のであったり、全く知らないものであったりするということがこ の結果から分かる。しかし、一方で、60%もの学校が受けている と答えていることから、PCSPが大規模な補助金支給制度であるこ とも分かる。

 Aどのような名目で支給されているのか

 1のAでも述べたように支給の目的別に3種類の補助金がある。 計画(Plannning)と実行(Implementation)と優れたプログラム の共有(Dissemination)である。以下の表は各学校がどの名目の 補助金を受給しているかを表したものである。

表3-1
Type of PCSP Subgrant Percentage of Schools(n=196)
Plannning 45
Implementation 63
Dissemination 22

 この表をみると、優れたプログラムの共有(Dissemination)の 項目に関しては22%の学校しか補助金を受け取っていない。この補助 金を受け取るには最低3年は学校の運営が続いていること、保護者の 高い満足を実現すること、生徒の学力の向上などのいくつかの条件が 学校には課される。そのため、他の名目の補助金に比べ、受給率が低 い。

 B具体的にどのような目的で使われているのか

 3つの名目に分けて助成される補助金は具体的にどのような目的で 使用されているのであろうか。名目と細かい使用目的を表したのが下 図である。計画(Planning)と実行(Implementation)はStart-up Subgrantsとしてまとめられている。
 Start-upとDisseminationの補助金の使用目的はもともと異なり、や はり、Start-upの補助金はカリキュラムや教材の開発(83%)に当て られたり、Disseminationの補助金は一般の学校へプログラムを共有す るための道具の開発に当てられることも多く(84%)、使い分けが一 応なされていることがわかる。しかし、大雑把に言えば、Start-upの 名目の補助金もDisseminationの名目の補助金も、実際には使用目的 の大差はない。どちらも、専門的な能力の育成やコンピューターのハ ードウェアやソフトウェアの購入に当てられることが多いことが分か る。さらに、どちらの補助金の場合でも半分以上もの学校が教職員の 給料に使用している。
 以上のことから考えると、使ってはならない項目として決まってい ること以外においては、かなりの自由度が各学校に認められており、 それぞれの都合に合わせた使い方をしていると言えるであろう。

表3-2
Area/Activity Percentage of Schools
Start-up Subgrants
(n=142)
Dissemination
Subgrants (n=44)
Curriculum or instructional materials 83 Not applicable for
dissemination
subgrants
Minor revovations or remodeling 47
Renting or leasing building or space 41
Professional development or training 79(includes travel) 79
Computer hardware or software 76 72
Consultants 59 49
Salaries for staff/support staff 55 64
Marketing, recruting, pubulic relations 43 31
Materials development Not applicable for
start-up subgrants
84
Travel 65
Meetings 60

 CPCSPが各学校へ与える影響

 PCSPは各学校にとってはどのような存在であるのか。 各学校がPCSPをどのように受け止めているのかを表してい るのが以下の表である。これによると、まず、PCSPが何ら かのことを行うのに役に立っているということをほとんど 全ての学校が認めているといえる。さらに、学校が設置で きたのはPCSPのおかげだという項目に対しては、新規開校 の学校は大体同意しており、私立学校はどちらとも言えな いという結果になっている。さらにPCSPがあったからこそ チャータースクールの設置をしたという項目に対しては、 全ての学校がどちらかというとそうではないと考えている ことが分かる。しかし、表にはないが、全体の35%もの学 校が、この項目に同意しているという。考えようによって は、チャータースクールの開校がPCSPのおかげだという点 をこれだけ強調している項目に35%の学校が同意している ということだけでも、そこにはPCSPの存在意義が見出せる のではないだろうか。
 さらに、新規開校の学校と私立からの転換校との比較を したい。新規開校の学校はPCSPのおかげで学校を設置でき たという項目に同意し、PCSPは学校にとって重大ではない という項目に対しては反対している。それに対し、私立学 校はどちらの項目に対しても、同意でも反対でもないとい う傾向がある。ここから読み取れるのは、新規開校の学校 にとってのPCSPの重大な必要性である。やはり、新規に学 校を開校するにはそれなりの経済的な負担があり、開校す ること自体が困難だということであろう。

表3-3
Mean
All
Schools
(n=183)
Newly
Created
(n=135)
Con-
version
(n=48)
PCSP funds allowed us to do certain things or to do them sooner than if we did not receive these funds 3.71 3.70 3.76
Our school would not have opened or stayed open without PCSP funds 2.91 3.11 2.43
The availability of PCSP funds is the reason that we decided to establish a charter school 2.17 2.20 1.89
PCSP funds added to our bottom line but they were not critical to our operation as a charter school 2.11 2.07 2.43
PCSP funds have had no effect on our operation 1.49 1.42 1.64
Note:The mean scores are based on converting responses to a 4-point scale with "strongly agree"equal to 4, "somewhat agree" equal to 3, "somewhat disagree" equal to 2, and "strongly disagree" equal to 1. *p<.10, ***p<.01 for differences between newly created and conversion schools.

3.The Public Charter Schools Programを通してみたチャータースクール

 さて、連邦政府の政策としてPCSPについて取り上げた。 個々から見えるのは、チャータースクールを増やしていこう という連邦政府の強い姿勢と、チャータースクールとPCSPの 強い関係性である。特に、2のCの表からも分かるように、 設置時において多くのチャータースクールはPCSPのサポート がなくてはやっていけない状況にある。それに対して、連邦 政府自身がPCSPの目的として、初期の設備費や運営費の援助 を挙げていることからも、連邦政府がチャータースクールの 抱える問題を的確に把握し、それに対応した対策を行ってい るということが分かる。

 しかし、一方で問題も残る。たとえば、2のBの表にあ ったように、PCSPの補助金の使途はかなりの自由度が認めら れている。チャータースクールとしては好都合であるが、そ れが連邦の狙い通りに使われているのか、連邦政策としては それで良いのか、その点に関しては議論の余地がある。


(1)"Evaluation of the Public Charter Schools Program: Year One Evaluation Report" Lee Anderson, Nancy Adelman, Kyo Yamashiro, Mary Beth Donnelly, Kara Finnigan, Jose Blackorby, Lynyonne Cotton, SRI International 2000 (pp.1)を参照のこと
(2)"A Decade of Public Charter Schools. Evaluation of the Public Charter Schools Program: 2000-2001 Evaluation Report" Lee Anderson, Nancy Adelman, Kara Finnigan, Lynyonne Cotton, Mary Beth Donnelly, Tiffany Price, SRI International 2002 (pp.50-57)より。
なお、表3-1はExhibit4-1、表3-2はExhibit4-2、表3-3はExhibit4-3から引用。
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