本研究では、日本における教員免許更新制への示唆を得るために、免許状の更新・上進制を19世紀より導入しているアメリカの先進事例からその取組みを明らかにすることとする。特に免許更新制の中でも、更新の際の要件や基準がどのように定められているのか、2州を取り上げる。一つはカリフォルニア州であり、正規教員免許状を更新制とするものである。もう一つは、ニュージャージー州であり、正規教員免許状が終身有効の免許状を発行する場合である。これらの要件と基準を現在の日本における免許制度と比較しながら検討する。そして最後に教員免許更新制は、教員の質に影響を与えるものなのか検討していくこととする。
教員免許更新制の導入が検討されている今日において、導入への賛否を問う議論が先行研究でなされることが多くなったが、先進事例から分析を行う研究は十分であるとは言いがたい。しかし、八尾坂修の研究では教員免許制度に関する緻密な研究がなされている。八尾坂(1998)は、アメリカ合衆国の教員免許制度に関して、教員免許制度の基盤をなす免許資格構造要因に視点をあて、実証的に考察を行い、有効な観点基準を示した。さらにこの論文を受けて八尾坂(2001) は、アメリカの教員免許制度の更新・上進制について、「免許状の取得方式」、「免許状の種類」、「取得要件」、「効力」の視点から萌芽期、展開期、発展期、充実志向期へと歴史的変遷を追っている。そして発展期、充実志向期に展開された免許状の更新制・上進制、終身免許状の制約、廃止についての検討を行い、さらに免許状の有効期間における現職教育の要求とのかかわりについて論じている。また八尾坂(2005)は、日本で議論されている教員免許更新制度についての分析と見解をまとめている。
上記のように教員免許更新制に関する先行研究は、八尾坂修の研究が有効なものとして挙げられる。そこで本研究では、これらの先行研究を踏まえて、アメリカの教員免許更新制について分析を行い、日本へ示唆を得ることを目的として取り組むこととする。教員免許更新制の導入が検討されている今日の日本において、改革を急ぐあまりに更新制度が形ばかりのものとならないためにも、この課題を改めて取り組み十分な検討を行うことは、重要なことであると考える。