今日の大学の大衆化がもたらす弊害として、苅谷剛彦はアメリカの大学の現状を見て、 「中等教育レベルで解決しておくべき課題が、教育の開放性の高まりとともに、高等教育レベルにまで遅延するのである」 と述べ、またアメリカの高等教育の危機をドロップアウト率の高さだけでなく、 「より深刻なのは、高等教育機関が、高校までの教育の不備を補完する役割を果たさざるを得ない点である」 とも述べている34 。アファーマティブ・アクションもこの指摘に当てはまることは、これまで既述したことからも明らかである。
そこでアファーマティブ・アクションによって入学した学生の学力は、それ以外の生徒に劣ることはなかったのか ということはアファーマティブ・アクションを考える上で重要な視点であるといえる。アファーマティブ・アクション と学力や卒業率といった観点で研究された論文として、カリフォルニア大学サンディエゴ校の学生を調査した Heather Roseの研究35 が挙げられる。この研究から、アファーマティブ・アクションによって入学した学生は、 他の学生よりもGPAの平均が0.3ポイント低く、また他の学生の大学卒業率の平均が73%であるのに対して、 アファーマティブアクションで入学した学生は57%と低いことが明らかになった。またそういった状況において、 バークレー校では、マイノリティのために初等教育レベルの学習支援プログラムが行われている36 。
したがって平等を達せすることを目的としたアファーマティブ・アクションは、学力の問題を軽視して平等が 先走ってしまっていたといえる。これは当時のアファーマティブ・アクションによって入学した学生に関しての 研究であるが、カリフォルニア大学の人種中立的アファーマティブ・アクションと位置づけられるELCも、高校に おける人種偏りや、人種間の学力格差を前提としてるから成り立つ制度であることを考えると、それは苅谷の指摘 するように中等教育での問題を高等教育に遅延することにかわりないない点は特筆すべき課題であろう。
註
35 Heather Rose, The Effects of Affirmative Action Programs: Evidence From the University of California at San Diego,
Educational Evaluation and Policy Analysis, Fall 2005, Vol.27,No.3, pp.263-289
36 a吉田仁美、前掲書、pp.82-83
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