2、アメリカの教育制度と改革の流れ

 まず、はじめに、背景を確認する意味でアメリカの教育制度と現在の教育改革の流れについて簡単にまとめる。アメリカは、18世紀半ば以降、世界に先駆けて義務教育制度の導入を図り公立初頭中等学校の授業料の無償制を実現した。また、州・学校区は単線型の学校制度を確立し、すべての人々に中等教育までの就学機会を制度上保障した。教育は合衆国憲法により州の専管事項とされてきた。初等中等教育に限れば、伝統的に州の基礎的な教育行政の単位である学区が実質的な権限を行使してきた。教育内容や指導方法、学校運営を含めた教育の多様性はこのような分権的な制度によって支えられてきた。しかし、アメリカの繁栄の一つの原動力となった教育に1970年代後半から改革の必要性が叫ばれるようになり、1980年代に入るとさらに全国的な運動へと拡大した。こうした教育改革の背景となったのは、貿易摩擦などに見られる経済の揺らぎと、学力低下や学校荒廃に見られる学校教育の危機である。1960年代から70年代にかけて選択教科の拡大などの過度の多様化が起こり、それが基礎学力の低下を引き起こしたとして非難された。

 こうした教育改革の流れの中で、1983年に連邦教育省によって『危機に立つ国家』が出された。この報告書の中で、深刻な学力低下の実態が明らかにされた。この『危機に立つ国家』をきっかけとして、以降、各州の教育改革への取り組みが活発になった。1990年代に入ると、教育内容の基準化・共通化を図る動きが一層明確になり、「教育スタンダード」が定められ、そのスタンダードに合わせた教育が各州で行われることが優先された。1994年には、全米的な教育目標や州の教育改革を支援する補助金の交付を定めた教育改革新工法「2000年の目標:アメリカ教育法」が制定された。2002年には、初等中等教育法改正法(No Child Left Behind Act of 2001)が成立し、「一人も落ちこぼさない法」という名前の通り、すべての子どもたちが学習スタンダードを達成することを目標としている。

1、はじめに

3、改革の中の教員の資質向上策