はじめに

 アメリカ合衆国(以下アメリカ)では、1965年移民法改正以後、ヒスパニック系の人々を中心として移民が急増した。 それに伴い1968年に「二言語教育法」(1970、1974年改正)が制定され、英語にハンディを持つ児童・生徒に対して 二言語教育を保障することとなり、1973年には連邦政府は26の言語に対するバイリンガル教育を行うため、 年間4500万ドルの予算を支出している。2002年成立のNo Child Left Behind Act(NCLB法)においても、 移民や英語能力が限られた(Limited English Proficient:LEP)生徒を学力水準の向上のための評価の中に入れ、 英語能力の向上を図るとともに、他の生徒と同様の高い学力水準を達成させることを定めている。 しかし、依然としてアメリカにおける移民・LEPの生徒は学業成績や高い中退率、貧困など多くの課題を残している。 またその政策についても、移民を多く抱える地域を中心に各州によって議論がなされており、その動向が注目される。

 本研究では、そういったアメリカにおける移民の教育に関して、特に英語力が限られた児童・生徒の学力向上を考える上で、 大きな課題となる言語の教育に焦点を当て、中でも近年のアメリカにおける言語教育政策に強い影響力を持ったとされる カリフォルニア州住民提案Proposition227を題材として、それをめぐる賛成派(二言語教育反対)と反対派(二言語教育賛成) との対立構図を整理し、その採択後の動向を追う。そして「二言語による教育と英語のみによる教育」 という点から学力向上への有効性及び課題を検討していき、移民・LEP生徒の学力向上への方策を探ることで、 日本における移民教育へも示唆を得ることを目的とする。


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