第1章:Proposition227における言語教育

 以下に示すようにカリフォルニア州は、「人種のサラダボウル」などと比喩されるアメリカにおいても 特にLEP生徒・移民が多いことで知られ、それに伴いLEP生徒に対する教育政策についても注目されてきた。


・カリフォルニア州の公立校に通うLEP生徒数(2007):約157万人(K-12)

・カリフォルニア州公立学校生徒数(K-12):約629万人

(California Department of Education, State of California Education Profile,2006-2007)


・アメリカ合衆国における全生徒の中に占めるLEP生徒の割合が多い地域

出典:U.S. Department of Education, National Center for Education Statistics condition of 2000-2001
(Table 15.-Number and percentage of public elementary and secondary migrant students and served in limited English proficient (LEP) Programs in the 100 largest districts in the United States and jurisdictions: School year 2000-01より上位10地域抽出)

Name of reporting districtStateNumber of students served in LEP programsPercentage of students served in LEP programs
Santa Ana UnifiedCA39,39265.0
Garden Grove UnifiedCA23,99149.2
Oakland UnifiedCA19,34434.5
San Francisco UnifiedCA18,62631.1
Sacramento City UnifiedCA14,94526.3
Aldine Independent School DistrictTX11,68122.2
Ysleta Independent School DistrictTX10,27622.1
MinneapolisMN10,61221.7
Elk Grove UnifiedCA8,66018.1
San Antonio Independent School DistrictTX10,28818.0

【Proposition227施行以前の二言語教育】

 Proposition227以前の法律では、学校にはLEP生徒に対して、「彼らに理解可能な形で」授業を行う義務があった。 この点を明確化するため州教育当局は以下に示すガイドラインを設定していた。またLEP生徒に対する特別の教育を行う期間 は明示されていないが、「(a)同学年の平均的生徒と同様の英語力の習得 (b)クラスで他の生徒と同じように積極的に授業 に参加できること」としており、それまでの間LEP生徒は英語の習得、及び主要科目の学習の二面で特別のサポートを受ける。


@LEP生徒に対する教育プログラムの目的はLEP生徒が英語に熟達することである。

Aこうしたプログラムにおいて、LEP生徒が学校の全ての活動で学習成果を上げることを可能ならしめなければならない。 そのためには、場合によってはいくつかの科目はLEP生徒の母語で行われる。

B学校は全てのLEP生徒が二言語プログラムに参加することを許可しなければならない。 ここで二言語プログラムとは、英語と生徒の母語の両言語を用いて教育が行われるプログラムである。

C学校は、保護者に子どもを二言語プログラムに入れるかどうかの選択権を与えなければならない。

【Proposition227が規定するLEP生徒に対する言語教育】

  1996年、ロサンゼルス統合学校区に子どもを通わせるヒスパニックの親は、学校側が子どもに英語を十分に教えていないとして、 学校から子ども達を連れ出し、クラス・ボイコットを起こした。この事件に端を発し、二言語教育廃止運動が展開され、 1998年6月2日、カリフォルニア州有権者は賛成61%、反対39%という大差で、カリフォルニア州での公立学校における 二言語教育を事実上終焉させるProposition227を採択した。その影響は多方面に現れており、二言語教育を終わらせる 動きは他州や連邦議会にまで広がった。

Proposition227の概要は以下の通りである。


@公立学校がLEP生徒に対して行う特別な教育においては、原則として英語で教えることが義務付けられる。 したがってほとんどの場合、いわゆる二言語教育クラスは廃止されることとなる。

A特別教育の期間を限定する。具体的には英語を支障なく使えるようになり次第、直ちに通常のクラス へ移さなければならない。さらに、特別教育クラスは、通常一年を超えないこととする。

ただし、例外規定も設けられており、学校は、生徒の保護者の要請があり、且つ以下のうち少なくとも一つが該当する時には、 英語以外の言語を用いて教育を行うクラスを設けてもよいとされている。


(a)生徒が10歳以上で、校長及び教師がこの生徒に関しては英語以外の言語で教えた方が良いということで一致した意見 を持っている場合。

(b)生徒が過去30日間通常のクラスに在籍していたが、校長、教師、そして学校区の教育委員長がこの生徒については 英語以外の言語で教育する方が良いとの共通の合意に達した場合。

(c)生徒が既に十分な英語能力を持ち、且つ保護者が、生徒を英語以外の言語による授業を受けさせることを希望した場合。

さらにProposition227では学校が少なくとも1学年20名を越えるLEP生徒が英語以外の言語による授業を取ることを希望した場合 には、その学校においてそうした授業を提供すること、そして20名未満の場合は、そうした授業の行われる学校へ生徒を移す ことを定めている。また予算の面では、10年にわたって毎年5千万ドルを、LEP生徒を教える成人(LEP生徒の保護者を含む) のための英語教育授業に当てるよう州に求めている。


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