3.ミシシッピ州における学校教育と人種差別撤廃

 これまで、人種差別撤廃に関わるアメリカ合衆国全体の動きについて述べてきたが、最後 にミシシッピ州の事例を取り上げる。ミシシッピ州を取り上げる理由としては、ミシシッピ 州はアメリカ合衆国においてもっとも黒人あるいはアフリカ系アメリカ人の割合が高い州で あるため、人種差別の問題が顕著に現れていると考えたためである。

 アメリカ合衆国における黒人、あるいはアフリカ系アメリカ人の割合が高い上位5州は以下 の通りである。(1)

地域 全人口 黒人/アフリカ系アメリカ人 割合
1 Mississippi(ミシシッピ) 2,844,658 1,033,809 36.3%
2 Louisiana(ルイジアナ) 4,468,976 1,451,944 32.5%
3 South Carolina(サウスカロライナ) 4,012,012 1,185,216 29.5%
4 Georgia(ジョージア) 8,186,453 2,349,542 28.7%
5 Maryland(メリーランド) 5,296,486 1,477,411 27.9%



@.ミシシッピ州における公立学校が抱える問題

 ミシシッピ州では、マイノリティの子どもたちに教育の機会均等を拒んできた歴史がある。 1900年代の中頃まで、ミシシッピ州の公立学校のシステムは、黒人に対して「分離したうえに 不平等」であった。例えば、学齢の子ども一人にかかる費用は以下の通りである。
1916年:白人10.60ドル/黒人2.26ドル
1939年:白人9.88ドル/黒人1ドル
1943年:白人8.27ドル/黒人1.75ドル

 ブラウン判決以降、黒人と白人の子どもたちに均等な教育資源の配分が目指され、法律も制 定されたが、それは「分離すれども平等」である状態に過ぎなかった。ミシシッピ州が真剣に この問題に取り組み始めたのはグリーン判決以降である。

 しかし、公立学校で人種統合が目指されるようになる1960年代から"White flight"という現 象が起こるようになる。1960年代から1970年代には白人は私立学校に移り、1980年代から1990 年代には郊外の白人のコミュニティに移っていった。この現象は未だにミシシッピ州の公立学 校で起こっている。

 例えば、以下のように白人/黒人の人口比と学校に通っている児童生徒の人口比が大きく違 う学校区が存在する。(2)

School district District Population School Population
% White % Black % White % Black
West Bolivar 23.9 75.6 5.1 94.1
Coahoma Country 30.0 69.2 2.7 96.0
Leflore 34.8 64.9 4.7 95.2
Drew 41.3 58.4 16.7 83.3



A.ミシシッピ州における教育の質

 ミシシッピ州では成績を基準(performance-based)とした認定システムを用いて各学校区を 評価している。認定レベルは1〜5までの段階があり、保護観察に置かれる1レベルから、一番優 れている5レベルがあり、3レベルは成功しているとみなされる。1995年では5レベルの学校区は 1つだけであり、4レベルは19学校区、3レベルは90学校区、2レベルは24学校区、1レベルは19学 校区であった。しかし、5レベルの学校に予算が多く振り分けられているかといえばそうではな い。生徒一人当たりにかかる費用の平均値は、上位の10校は3,963ドルであるのに対して、下位 の10校では4,509ドルとなっている。

 ミシシッピ州では"Mississippi Adequate Education Program"という計画が実施されていた。 これは、全ての学校区は適切な教育を行えるように十分な予算を与えられるというものである。 このプログラムは1998年に開始され、6年間で段階的に実施された。

 また、教育の質を決める重要な要因として、校長の任用方式が挙げられている。ミシシッピ州 では他の州と違って、任命を受けた校長よりも選挙で選ばれた校長の方が多い。そして、任命さ れた校長のいる学校のほうが、選挙で選ばれた校長よりもよい成績を収めているという報告もあ る。その原因としては、選挙で選ばれた校長はその地域に通じており、新しい改革を行うことが 困難であるという。その一方で、選挙で選ばれた校長の方が地域の声を反映しやすく、任命を受 けた校長は、取り組むことがあらかじめ決まっていて、地域の実情に合わない場合があるという 指摘もある。


B.ミシシッピ州の教員問題

 1994年の教育省は、都市部と地方では公立学校の教師の給与に数千ドルの差があることを報告 している。1993/94では、合衆国全体の教員給与の平均値は36,846ドルであるのに対して、ミシシ ッピ州においては25,715ドルであるという。1998年にはわずかに増え、全国平均が37,560ドルで あり、ミシシッピ州では27,720ドルであった(1997年に10%増加)。新規採用の教師の給与につ いては、ミシシッピ州は18,833ドルと全国的にもかなり低い額となっている。2000年に、ミシシ ッピ州知事は今後6年間に30%まで段階的に教員給与を増やすという法律に署名した。しかし、こ の法律が実施されるには州の歳入が5%増加することが前提条件となっており、教員を失望させる 結果となった。

 マイノリティの教員不足も深刻であり、アフリカ系アメリカ人で教育を専攻する優秀な生徒は より高い給与を求めてミシシッピ州から出て行ってしまうという報告もある。アフリカ系アメリ カ人の生徒にとってアフリカ系アメリカ人の教師は一つのロールモデルとして必要とされている 一方で、黒人の生徒が大多数を占める学校において約半数の教員は白人であるという現状もある。

 1998年には教員不足が深刻となり、"Mississippi Critical Teacher Shortage Act"が定めら れ、いくつかのプログラムが実施されている。

Critical Needs Teacher Scholarship Program:
教員不足の地域で教員になりたいという学生に対して、指導や部屋、食事を提供する。
William Winter Scholarship Fund:
新規採用の教師が、教科あるいは地理的に教員が不足している地域で一年間教員になる事に同意 すれば、州が二年分の教員養成にかかった費用を払い戻す。
Relocation Grant/Reimbursement of Interview Expense:
教員不足の地域に異動する教師に補助金が与えられ、また、採用の面接時にかかった費用が返済 される。

 なぜ教師がその職を離れるのか、という点については、@低い教員給与、A教員数に対する生 徒数の割合が高く、特に教室にいる生徒の能力の差が大きい場合には指導が困難であること、B 退職金をもらう条件が勤続30年から25年に下がり、早期に教員を辞めて、私立学校に移動する場 合があることが指摘されている。



(1)United States Census 2000 / The Black Population: 2000 / Issued August 2001 / p4より作成 http://www.census.gov/prod/2001pubs/c2kbr01-5.pdf
(2)State of Mississippi, Department of Education, Office of Accountability Reporting, Mississippi Report Card '95より作成



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